2024年のJAF全日本ジムカーナ選手権は3月第3週の週末に栃木県のモビリティリゾートもてぎ南コースで開幕した。今年のシリーズは全10戦の開催。この内、今回のもてぎ南を含め、3会場でダブルヘッダーの2連戦が行われる。従って、シリーズの5分の1が早くもこの週末に終了した形だ。
昨年、北海道ラウンドのオートスポーツランドスナガワで試みられたこのダブルヘッダー方式は、今年も6月にスナガワで、また8月の東北ラウンド、スポーツランドSUGO西コースでも行われる。残る4戦は、第3戦スポーツランドTAMADA(広島県)、第4戦名阪スポーツランド(奈良県)、第7戦イオックスアローザスポーツランド(富山県)、そして9月に行われる最終戦のハイランドパークみかわ(愛媛県)となる。
ジムカーナという競技は、今回のもてぎ南コースのように、広大なスペースに多数のパイロンを配置してコースを設定する「パイロンジムカーナ」と、ミニサーキットのようなあらかじめコースレイアウトが決まっているコースを使いながら、その中でコースを逆走したり、道幅の広い所でパイロンセクションを設定する「コースジムカーナ」に大別される。今年のシリーズでは、今回のもてぎ南、イオックス、みかわの3会場がパイロンジムカーナであるため、10戦中4戦を占めるという、ここ数年の中ではパイロンジムカーナの比率が高いシリーズになる。
当然ながら10戦中6戦を占めるダブルヘッダーの大会がチャンピオン争いの動向に大きく影響することは間違いないが、このダブルヘッダー大会では、コスト削減を目的として2日間でタイヤが1セットしか使えないという規定が盛り込まれたため、タイヤ選択もこれまで以上に勝敗を大きく左右する要素となりそうだ。また今大会では、第2戦の出走順が第1戦のリバースオーダーとなる形が採られた。こうした新機軸の動向も注目したいところだ。
注目の開幕ラウンドのコース設定は、第1戦、第2戦ともにスタート位置は同じながら、第1戦で設定された中速スラロームが第2戦では消えて、ターンセクションが増えた、よりテクニカルな設定となった。コース長は第2戦の方が50mほど短いものの、ゴールタイムは第1戦よりも長くなったことが、その性格の違いを証明していると言えるだろう。
天候は第1戦は日差しが強く降り注ぐ快晴となったが、第2戦は雨が降る予兆は終始なかったものの、時に雲が太陽を遮ることも多く、前日ほどの快晴とはならなかった。しかし全般的には好天に恵まれたレースウィークとなった。
電動パーキングブレーキ装着の車両等が対象のPE1クラスは12台が参加した。昨年、“ミスター・ジムカーナ”こと山野哲也にチャンピオンをもたらしたアルピーヌA110が今年は過半数の7台を占め、すっかりこのクラスの主力マシンとなったが、テスラも2台参加と、全日本ジムカーナの“新たな顔”が揃うこのクラスは、今年も大きな話題を集めそうだ。
結果は弟の山野直也とダブルエントリーした山野哲也が、2戦とも兄弟で1-2フィニッシュを達成。今年、山野が駆るのは従来モデルよりさらなる軽量化が図られたA110R。今回のもてぎ南コースは、山野が自ら主宰するドライビングレッスンで普段から使用しているホームコースであるとはいえ、いずれも3番手以下に2秒以上もの大差をつけるタイムでゴールした。ニューマシンのポテンシャルを初戦から見せつけるには十分なタイム差と言えるが、第3戦以降はライバル達の追撃にも注目していきたいところだ。
PE2クラスは、2WDのAT車両を対象とするクラス。昨年は、北海道ラウンドの2戦でクラスが成立したものの、残念ながらシリーズは不成立となってしまったが、今年は開幕戦から7台のエントリーがあり、シリーズの成立に向けて好スタートを切った。
その第1戦では、今回が全日本デビュー戦だった若手の下村渉が駆ったGR86が優勝を飾り、注目を集めた。ジムカーナ歴は3年ながら、昨年の関東地区戦で表彰台を獲得するなど、その速さが注目されていた下村は、「昨日の練習走行のコースをイメージして調整したセッティングが今日はコースが違い過ぎて1本目はダメでした。2本目にセットを変えたらタイムを上げることができて勝つことができましたが、足回りをもう少し煮詰めないと厳しいですね」と冷静にコメント。開幕2連勝に向けて闘志を募らせた。
下村は、第2戦でも前日同様、第1ヒートは2番手につけて逆転優勝を狙ったが、1本目トップのベテラン、高屋隆一のBRZが第2ヒートでも自らの暫定ベストを0.8秒削り取ってトップを守り、下村を振り切った。「まだこのクルマは3回ほどしか乗ってないけど、走るたびに新しい引き出しが出てくるので、今日はそれを見極めて走ったら勝てたという感じかな」と高屋。
「次戦は地元広島なので、ここで一度勝って、少しでも気持ちを楽にして臨みたかったので、まずは良かった」とホッとした表情を見せた。GR86/BRZ勢が優勝をさらったこのクラスは、ロードスターRFを駆る全日本チャンピオン経験者の河本晃一や、全日本優勝経験を持つ有田光徳といった実力者も揃うだけに、驚異のルーキーとのバトルが次戦以降も展開されそうだ。
PN1クラスはディフェンディングチャンピオンの朝山崇のヤリスが連勝を果たし、幸先の良いスタートを切った。昨年、朝山と熾烈なタイトルレースを展開した斉藤邦夫は、第1戦は僅差の2位を確保したが、第2戦ではパイロンペナルティとミスコースに泣き、表彰台を逸する厳しい結果となった。
「今年からヤリスが205サイズのタイヤを履けるようになったので、自分のドライビングスタイルやセッティングをより生かせるようになった」と朝山。今回の2連戦では、有力選手でさえパイロンペナルティやミスコースが多かったことに対しては、「リズムの切り替えが難しい設定だったのはたしかだけど、自分の場合は、ホームコースの地元のみかわ(愛媛)が同じフルパイロンなので、みかわと同じイメージで走れた所が何か所かあった」と、遠く離れたもてぎの地で“地の利”があったことを明かした。
このクラスは今回の開幕戦では10台中9名のドライバーがヤリスを選択したが、ただ一人デミオをチョイスする福田大輔が第2戦で2位に食い込んだ。孤軍奮闘する福田の、クルマのホームコースとなる次戦広島での走りが楽しみだ。
PN2クラスは参加14台がすべてND5RCロードスターを選択する事実上のワンメイククラスとなった。このクラスは昨年、チャンピオンを獲得したFRマイスターの川北忠がPN3クラスに移籍。その川北と最終戦まで息詰まるチャンピオン争いを展開した小野圭一がチャンピオン候補本命と見られている。しかしその小野は開幕戦でまさかの8番手止まり。1本目は4位だったSHUNが逆転で優勝をさらった。
第2戦では前日の第1ヒートでトップタイムを奪った箕輪雄介が再び1本目を制するが、第1ヒートで7番手に沈んだ小野が、今大会のラストトライで箕輪の暫定ベストを上回る1分24秒台に乗せてくる。箕輪は第2ヒートでも好タイムをマークするも痛恨のパイロンタッチ。そして前日の優勝でこの日は最終走者となったSHUNがスタート。0.3秒、小野のタイムを削り取って2日連続で見事な逆転優勝を飾った。
「人生初のラストゼッケンだったけど(笑)、プレッシャーを感じることなく攻めの走りができた」と振り返ったSHUNは2018年以来の勝利の美酒。「1本目、安全に行き過ぎた所を2本目で詰めるという走りが2日間できたと思う。タイヤも路面のコンディションにバッチリ、ハマってくれた。そう簡単には勝たせてくれないクラスであることは分かっているけど、今年は何とか最後までタイトル争いに食らいついていきたい」と意欲を見せた。
最後の最後で2位を射止めた小野は、「この三か月ほどクルマの調子が悪くて満足に乗れなかったので、勘を取り戻すのに時間がかかってしまった。去年はいい結果を残せたけど、毎回、課題が見えた一年でもあったので、今年は仕切り直して、毎戦その課題をしっかり修正する走りを心掛けていきたい」と次戦を見据えていた。
PN3クラスは、今回も参加27台と一番のエントリーを数えた。GR86/BRZが多数を占めるが、山野哲也も駆ったアバルト124スパイダーも複数台エントリーする。その中、昨年、チャンピオンを獲得したのはロードスターRFをドライブしたユウ。8戦中5勝と圧倒的な勝ちっぷりを見せて3年連続でチャンピオンに輝いた。
第1戦ではそのユウが1本目からただ一人、1分19秒台に入れてトップに立つが、第2ヒートに入ると昨年のこの大会を制した大多和健人ロードスターRFが0.5秒、ユウのタイムを凌いでトップを奪回する。再逆転を狙ったユウだったが、痛恨のパイロンタッチ。翌日に向けてタイヤ温存を考えて走行を途中でやめ、ノータイムに終わったが、1本目のタイムで2位は確保したものの、大多和にもてぎ連覇を許す形になった。
翌日の第2戦も大多和は絶好調。第1ヒートでユウを0.3秒差の2位に従えてトップで折り返す。第2ヒートに入ると、今季からロードスターRFに乗り換えた川北忠がユウの1本目のタイムを超えてくるが、大多和の暫定ベストには及ばず。ユウは逆にタイムを落としてこのヒートは3番手に後退。ラストゼッケンの大多和は自らのタイムを0.5秒近くも詰めてゴールするもパイロンタッチを取られ、ベスト更新は果たせず。しかしトップの座を守って、もてぎを完全制覇した。
山梨県在住の大多和は身延山の麓にあるジムカーナコースをホームコースとするが、「オフの間に走行会に参加した仲間の競技車を運転させてもらう機会があって、凄く勉強になった。セッティングの対応能力が上がったことが今日の結果にも繋がった気がする。全日本も今年で3年目なので、勝負の年にしたい」とジムカーナ仲間への感謝を語りつつも、次戦に向けて気を引き締め直していた。
一方のユウは、「自分のクルマの動きに満足できない所があったので、オフに仕様を大きく変えた部分の最後の調整が間に合わなかった。ただ昨日よりターンが増えた今日のコースは、まさに大多和選手の得意とするレイアウトだったので、正直、勝つのは厳しいと思っていた」と未勝利に終わった開幕ラウンドを振り返った。ただし第3戦までのインターバルは約2か月。チャンピオンが本来の速さを取り戻すには十分な時間が残されていると言っていいだろう。
PN4クラスはチャンピオン、茅野成樹がBC3クラスへ移籍。そのBC3クラスから、茅野同様、全日本ジムカーナを代表するドライバーである津川信次が入れ替わる形でこのクラスへ移行してきた。同じGRヤリスとは言え、PN4の車両は改造車ベースのBC3の車両と比較すると、改造範囲は大きく狭められ、履けるタイヤも制限されるため、仕様は大きく異なる。しかし津川は初戦からPN4仕様のGRヤリスを手なづけて両ヒートともベストを奪い、あっけなく新たなクラスでのデビューウィンを飾ってしまった。津川は第2戦の第1ヒートでも暫定ベストをマーク。第2ヒートではともにGRヤリスを駆る奥井優介、松本敏が0.1秒差まで迫ったが、逆転には至らず。津川はタイムを落とすものの、この日も勝利を飾り、タイトルレースで早くも優勢に立った。
GRヤリスについては昨年、GRMNモデルが発売された (今回は松本がドライブ) ほか、マイナーチェンジも行われ、いずれのモデルも競技車のベースモデルとしてのポテンシャルが向上している。そのため、今後は仕様が異なるGRヤリスの間でバトルが勃発する可能性も高い。このPN4クラスは一年を通して、その動向が注目されるクラスになりそうだ。
BC1クラスは、昨年、CR-Xで初の全日本チャンピオンを獲得した野原博司が不参加となったが、シリーズ上位勢はほとんどが元気な姿を見せた。そんな中、開幕戦の第1ヒートは昨年のシリーズ6位の石澤一哉のインテグラが0.009差で橋本克紀シビックを抑えて暫定トップを奪取する。この2台は第2ヒートでも0.007秒差でまたも石澤が橋本を従えてトップを守るが、後走の昨年のシリーズ3位、山越義昌のシビックが一気に2台を打っちゃってトップに立つ。しかし2年ぶりの王座奪回を狙うラストゼッケンの西井将宏が山越のタイムを0,4秒詰めてゴール。パイロンペナルティで沈んだ1本目を帳消しにするタイムで優勝をさらった。
このクラスは、翌日の第2戦も勝負のかかった第2ヒートで、コンマ1秒単位で次々とベストタイムが塗り替えられていくスリリングな展開を見せる。ラスト西井のトライの前にトップに立ったのは好調の石澤。この日もそれまで暫定トップだった橋本を僅差で抑えて勝利決定の瞬間を待ったが、同じインテグラに乗る西井は1秒近くもベストを塗り替える走りでゴール。前日に続いて劇的な逆転優勝を飾った。
「金曜日の練習走行まではダメダメだった」という西井は、「パイロンが嫌いな自分としては(笑)、今回は外周をいかに全開で行けるかが勝負だと思ったので、そちらにセッティングを振ったんだけど、パイロンセクションも何とか行けるバランスのいいセットが結果的には見つけられた。去年は雨のここの開幕戦で失敗して、ズルズルと引き摺ってしまった一年だったので、この連勝は大きい」と振り返った。
前年の王者不在の中、シリーズ2位のドライバーの連勝は、ある意味、順当ともいえるが、第2戦で見せたその圧倒的な勝ちっぷりは、ライバル達にとっては今後、奮起の材料になるはずだ。なおこのクラスは、かつて全日本のトップスラローマーとして活躍し、復活を果たした大ベテランの日部利晃が、参加20台を超える激戦区で7位、5位と結果を残した。オールドファンとしてもその動向を見逃せないクラスになりそうだ。
BC2クラスは2年連続で熾烈なチャンピオン争いを展開した広瀬献と若林拳人がともに残留した。昨年は有効ポイントでまったくの同点に並びながら、2位の獲得回数で上回った広瀬がV3を達成したが、もうすでに令和の名勝負として全日本ジムカーナ史にしっかりとその記憶を刻んだ2台が、三たび激突するこのクラスも大きな注目を集めそうだ。
今回もこの2台は3番手以下を大きく引き離す異次元バトルを見せたが、結果は若林が2戦とも両ヒートをベストで上がるという完全制覇を見せて好スタートを切った。第2戦では2WD勢ではただ一人、1分20秒を切るタイムをマークして広瀬を寄せ付けなかった若林は、「今日は昨日と同じセットで走ったけど、クルマが苦手とする部分が少なかったのでコース設定に助けられた面はあったと思う。クルマが苦手な所は運チャンの方で頑張ろうとしたけど、新しいタイヤに慣れてきたせいか、それほどロスはしなかった」と振り返った。
昨年まではADVANタイヤを履いていたトップ2台は、今季の開幕戦では、揃ってタイヤメーカーをブリヂストンに変更した。いかに新しいタイヤに短時間で習熟するかという課題をともに背負った形だが、厳密にいえば、S2000の広瀬とエキシージの若林では使用できるタイヤサイズも異なってくる見通しだ。
「クルマもアップデートの途中だし、タイヤも未経験の部分が多いので、また今年も厳しい戦いになると思う」と若林。一昨年は序盤、2連勝するも広瀬に中盤戦で巻き返され、昨年は逆に中盤戦で盛り返すも終盤2連戦を広瀬にさらわれ、またも敗北を喫しただけに、追い込まれた時の広瀬の爆発力はすでに経験済みだ。第3戦以降の広瀬の巻き返しも注目を集めそうだ。
大会のトリを務めるBC3クラスは大波乱のスタートとなった。PN4クラス3年連続チャンピオンの称号を手土産に、今年からこのクラスへ移籍を決めた茅野成樹のGRヤリスが金曜の練習走行時にエンジントラブルが発生。レースウィーク中の修復が不可能となったため、急遽、茅野は同じ中部地区の掘隆成のGRヤリスでダブルエントリーすることを決める。しかし結果は表彰台が大きく遠のく9位と7位でゴール。“万が一”が起きた時のダブルヘッダーの怖さを身を以て知ることとなった。
混乱の中、始まった第1戦では昨年のチャンピオン、菱井将文のGRヤリスがGC8インプレッサの大橋渡に一旦は逆転を許すも、再逆転を果たしてまずは優勝。しかし第2戦では大橋が両ヒートとも菱井を下してリベンジを達成し、昨夏の第6戦以来の勝利を遂げた。
茅野GRヤリスの本来の速さを見ることができないまま終了したこのクラス。5月の第3戦で本来の開幕を迎えるであろう茅野の走りを待つことなく、このクラスの勢力図をいまの段階で占うのは困難な作業であることは言うまでもない。役者が揃う次戦のバトルが待ち遠しい所だ。
フォト&レポート/BライWeb