プレイバック2024全日本ラリー① モントレー/群馬開催の伝統の一戦、JN5クラスは地元のスペシャリストがトップ3のバトルに割って入り、初優勝

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 全日本ラリー選手権は6月7~9日に群馬県で行われた「加勢裕二杯モントレー2024」でシリーズ第5戦を迎えた。2024年の全日本ラリーは3月の開幕戦からこの第5戦まではすべてターマック(舗装)ラリーとして行われた。第6戦からは北海道に舞台を移してグラベル(未舗装)ラリーが2戦続けて行われ、10月の最終戦で再びターマックを走るという構成になっている。

 FIAアジア・パシフィックラリー選手権のタイトルもかかった一戦となった今回のモントレーは、10本のSS、総計106kmのターマックを二日間かけて走る。そして今回一番の話題は、漫画「頭文字D」で全国に名を轟かせた伝説のターマックステージ、碓氷峠旧道が実際にSSとして設定されたことだ。国道を占有してラリーのSSとして使用するのは非常にまれなことで、ラリー王国とも呼ばれる群馬の主催関係者の意気込みが注がれたステージとなった。

 参加16台と、JN2クラスと並んで今回、最多のエントリーとなったのが、1,500cc以下の車両を対象とするJN5クラス。その内訳をみると、ヤリスが13台と圧倒的に多く、デミオが2台、マーチが1台というラインナップだ。

 今シーズンのJN5クラスは、ここまで4戦を経過してウィナーが3人と“乱戦”となっている。3月に愛知で行なわれた開幕戦ラリー三河湾では、真冬並みに冷え込んだコンディションの中、低グリップ路面に慣れた北海道の松倉拓郎/山田真記子のヤリスが優勝。2023年に初の全日本チャンピオンに輝いた松倉は、これが全日本のターマックラリー初優勝となった。

 4月に佐賀で開催された第2戦ツール・ド九州では地元の河本拓哉/有川大輔のデミオが優勝。その僅か2週間後に愛媛で行われた第3戦久万高原ラリーでは大倉聡/豊田耕司のヤリスが、このラリー2連覇を狙った河本を下して優勝。5年ぶりの王座返り咲きを狙う大倉は続く京都開催の第4戦ラリー丹後でも連勝し、ランキングトップに立った。今回のモントレーでも、ここまで優勝を飾っているこの3台を軸としたバトルが展開されると思われた。

 SS1でトップ3のバトルを制したのは河本のデミオ。大倉を 2.2秒かわして好スタートを切る。一方、松倉は河本から10秒以上も遅れを取り、いきなりハンディを背負ってしまう。しかしベストタイムを奪ったのは河本ではなかった。5.7秒も河本をちぎったのは地元群馬の嶋村徳之/小藤桂一のヤリス。嶋村は普段はランサーエボリューションを駆る東日本を代表する地区戦ドライバーだが、今年はMATEX AQTECラリーチームのドライバーに抜擢され、第3戦久万高原で3位に入賞。第4戦ラリー丹後では4位に留まったが、最終SSではベストタイムを奪う速さを見せるなど、頭角を現してきた。

 SS1のShionosawa Tougeは地区戦でも使われているステージで、嶋村に地の利があるのはたしかだった。続くSS2 のYokura Tougeも地区戦ではお馴染みのステージ。その流れでいえば再度、嶋村がベストを奪うかと思われたが、ここは大倉がベストを奪い、復調した松倉が0.6秒差で続き、嶋村は2.5秒遅れの3番手に留まる。

 嶋村vsJN5クラスTOP3の構図がはっきりとする中、勝負は今大会最も注目を集める碓氷峠旧道のステージに移った。ここは9.1kmを一気に2回連続で走る。ここで再び、嶋村が爆発的な速さを見せる。SS3で大倉を5.7秒差で下すとSS4ではその差を10.7秒へと拡大。松倉に対しても2本で約30秒ものマージンを作った。

 嶋村のタイムは、スイフトスポーツやGR86/BRZ勢を凌ぐもので、つまりヤリスで2WD車両のトップを奪うという驚愕のタイムだった。この2本のステージで大きなアドバンテージを築いた嶋村は、この日の残るShionosawa Touge、Yokura Tougeもサードベスト、セカンドベストで走り切って首位をキープして、ラリーを折り返した。

碓氷峠旧道の2本のSSでのベストが効いた嶋村は、ナイトステージでも好タイムをマークして首位をキープした。©BライWeb

 嶋村は翌日のLEG2も4本のSSをすべて3番手以内に入るタイムで走って最後まで首位を譲らず、最終的には2位に入った大倉に13.1秒競り勝って、全日本初優勝を獲得した。「地元なので、勝ちたかったというより、勝たなければいけないと思っていた」と嶋村。「SS1の前半の上り区間は地区戦で走った経験があったので、危ない所以外は全開で行こうと最初から決めていた。あそこでベストが獲れたことで、“これくらい攻めれば、これくらいは行ける”という、今回のラリーで勝つためのペースが掴めた」と振り返った。

「ただベストが獲れなかった所は、やっぱりトップのヤリスの2台は速いなぁ、と。もっとサクッと勝てると思ったけど(笑)、さすが全日本でしたね。やっぱりランサーと同じ感覚ではヤリスは走れない。何しろ、車重もパワーも全然違うので、最初はブレーキも結構、余らせたりしたけど、その辺のアジャストが4戦走って段々見えてきた。今回が(ヤリスの)ぶっつけ本番だったら、いくら地元でも勝てなかったと思う」と話した。

激戦区を制した嶋村(左)とコ・ドライバーの小藤(右)。最近はなかなか見られなくなった、地元の“群馬スペシャリスト”が全日本を制すというモントレーの伝統が久々によみがえった。©BライWeb

 最終SSまで熾烈を極めた2位争いは、2日目にDAYベストをマークした大倉が3.3秒差で松倉を振り切った。その松倉も、LEG2は5.3秒差で嶋村を抑えて2番手タイムでゴール。ディフェンディングチャンピオンの意地を見せた。

LEG2では嶋村ヤリスを抑えてDAYベストをさらった大倉聡/豊田耕司だが、トータルでは13.1秒及ばず、2位でゴール。©BライWeb
開幕戦からすべて表彰台獲得と安定した速さを見せる大倉は、ポイントリーダーの座を守った。©BライWeb

 ブレーキのトラブルもあって出遅れた河本は、DAY2もペースを上げられず、前日同様の4位でラリーを終えた。「好きな道が多いラリーだったので勝ちたかった。今日は九州にはないタイプの道で危ない思いもしたけど、自分では攻めきれた感じはある。今年の中では、一番、クルマと仕様の違いがはっきりとタイムに出たラリーだったと思う」と振り返った。

好スタートを切ったように見えた河本拓哉/有川大輔だったが、その後は“単独走行”を強いられ、終始、4位をキープするラリーとなった。©BライWeb

 松倉も、「ドライバーやクルマの得意/不得意がはっきりしたラリーだった」と河本と同じようなコメントを残した。松倉も大倉も同じヤリスだが、FFのGRヤリスを駆る大倉は松倉のヤリスとは違うサイズ・銘柄のタイヤを履く。「でも、ぶっちぎられるほどのタイヤではない」と松倉。「コース特性に自分のタイヤの方が合ったところではベストが獲れているので、獲れるSSをしっかり獲れば勝負ができる」と最終戦に自信を覗かせた。

松倉拓郎/山田真記子は最終SSでは圧巻のベストタイムを叩き出して大倉に迫ったが、届かず、3位でラリーを終えた。©BライWeb

 この一戦を終わってのポイントは大倉が90ポイントで首位を守り、河本が72ポイントで追う。第3戦を欠場した松倉は68ポイントまで積み上げて、嶋村が2.6ポイント差で続く。「今年は、JN5の人達はJN4クラスを上回るタイムも時に叩き出している。だから勝てなかったとしても崩れずに2、3位を獲って、そういうハイレベルな中に常にいることが重要。その意味では想定内の結果は残せた」と、ディフェンディングチャンプの松倉はそう締め括った。最終戦までチャンピオン決戦は持ち込まれるのか。グラベル2戦の展開が要注目だ。

3位に留まった松倉だが、4本のベストタイムを奪って前年チャンピオンの面目は保った。後に控えるグラベル2連戦で形勢逆転を狙う。©BライWeb
今季初参戦となったラリー丹後で2位を獲得。活躍が期待された吉原將大/伊豆野健太ヤリスだったが、今回はペースが上がらず、5位に甘んじた。©BライWeb
北陸の若手、冨本諒/里中謙太は吉原に11秒遅れの6位でラリーをフィニッシュした。©BライWeb
JN1クラス/シュコダ・ファビアR5を駆る新井大輝/松尾俊亮が、勝田範彦/木村裕介のGRヤリスRally2との最後まで緊迫したバトルを制して優勝。碓氷峠旧道の連続ベストが結果的には効く形となった。©BライWeb
JN2クラス/LEG1では4番手だった大竹直生/竹藪英樹が、トップとの5秒差を跳ね返して大逆転。GRヤリスでの初優勝を飾った。©BライWeb
大竹はJN2クラスの若手が集うMORIZO Challenge Cupでも初優勝を飾り、開幕戦から見せてきたスピードを証明した。©BライWeb
JN3クラス/山本悠太/立久井和子のGR86が、長﨑雅志/大矢啓太の猛追を3.8秒差でかわして開幕戦以来の優勝を獲得した。©BライWeb
JN4クラス/群馬のラリーで腕を磨いた西川真太郎/本橋貴司はDAY1から後続を1分以上も引き離す快走を見せて、前戦ラリー丹後から連勝を飾った。©BライWeb
JN6クラス/前戦で開幕4連勝を阻止された天野智之/井上裕紀子がDAY1から大きなリードを築いて快勝。本来の速さを取り戻した。©BライWeb
2台がエントリーしたアジア・パシフィックラリー選手権RC5クラスは相原泰祐/萩野司のダイハツ・コペンが優勝した。なおRC2クラスは、新井大輝/松尾俊亮が全日本とのダブル優勝を飾っている。©BライWeb

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