全日本ラリー選手権は6月6~8日に群馬県を舞台とした「加勢裕二杯 MONTRE 2025」が、シリーズ第4戦として開催された。
今年のMONTRE(モントレー)は昨年同様、安中市をホストタウンとして開催。オールターマックとなる8SS、68.56kmで勝敗が競われた。昨年、大きな話題を呼んだ国道の碓氷峠旧道を使用したSSが今年も2本設定され、今年も多くの観客が駆けつけて、賑わいを見せた。
梅雨に近い時節に開催されることが多く、これまで雨に祟られることも珍しくなかったモントレーだが、今年は2日間とも降雨はなく、天候に恵まれた形となったため、各クラスでスリリングなドライターマックバトルが展開された。
JN3クラスは、ディフェンディングチャンピオンの山本悠太/立久井和子のGR86が、開幕3連勝と今季も圧倒的な強さを見せている。今回のモントレーでも山本は、14kmのSS1、
Yokura Tougeで2番手に6.3秒差をつけるベストタイムを奪取。早くもラリーの主導権を握った。
しかし山本のGR86は、2度目の碓氷峠旧道ステージとなったSS3でマシントラブルが発生。あっけなく、リタイヤとなってしまう。ここで息を吹き返したのが、過去3戦、山本に抑えつけられていたライバル達。
山本が消えたSS3では山口清司/澤田耕一のGR86がSS2に続いてベストを奪って碓氷峠旧道を完全制覇すると、この日最後のSSとなった2度目のYokura TougeでのSS4では上原淳/漆戸あゆみのBRZがベストタイムを奪い、反撃の狼煙を上げた。
しかしこの日をトップで折り返したのはこの2台ではなかった。「いつもはSS1は速く走れるんだけど、今日は全然ダメだった。コースのリズムと自分の走りのリズムが食い違ってしまって、アクセルを踏んでいるつもりでも、スピードは出ていないという感じだった」と振り返った山口は、そのSS1で大きく遅れたことが響いて4番手。上原も3番手にとどまった。


この日、首位に立ったのは全日本本格参戦2年目の渡部弘樹/横山慎太郎の86。鈴木尚/島津雅彦のBRZが6.2秒差の2番手に続いた。鈴木は2016年にスイフトスポーツで全日本チャンピオンを獲得したドライバー。2021年にも、BRZで僅差のシリーズ2位に食い込むなど、実力派ドライバーとして知られる。
現行車種に乗る上原、山口に対して、渡部、鈴木は排気量で劣る旧型の86、BRZとあって、その“下剋上”に注目が集まったが、渡部から4位山口までの差は13秒。翌日のLEG2も、トータル22.8km、4本のSSが控えることを思えば、4台の新旧対決は接近戦になると思われた。
LEG2最初のステージ、SS5 Shionozawa Tougeでは鈴木がベストタイムを奪取。鈴木は続くSS5 Nostalgic Dojoでもベストを奪った上原から0.1秒落ちのタイムで上がり、このSS、4番手に終わった渡部との差をグッと詰める。そして2度目のShionozawa Touge となったSS7でも渡部を1秒上回り、逆に0.8秒差をつけて首位に立った。
残すSSはNostalgic Dojoの1本のみ。優勝争いは現行車勢を置き去りにする速さをこの日もキープした旧型の2台に絞られた。注目のそのNostalgic Dojoは、前走のSS6では鈴木が渡部を3.8秒もちぎっている。流れを味方につけた鈴木が、そのままトップを守るのでは、と思われた。

だがここで渡部が驚異の走りを見せた。渡部はSS6から7.2秒も詰める圧巻のタイムでゴール。土壇場で自身初となる全日本ラリーのベストタイムをマークする。鈴木も前走から2.6秒、タイムを詰めて2番手タイムでゴールするが、最後の最後で2台はまったくの同秒となり、ラリーは終了。同タイムの場合はSS1のタイムで速かった方が優勝を得るという規定により、このSSで4.6秒、鈴木より速かった渡部が、全日本初優勝を手にした。

「最後は攻め抜きました。今までなかなか結果が出せないラリーが続いていたので、地元の群馬で、最後の最後で自分でも初めてのSSベストが獲れて、勝てたというのは、本当に嬉しい」と渡部。一方、鈴木は、「負けた気がしない。でも、もちろん、勝った気もしない」と、同秒2位という結果に無念の表情を見せた。
「最後のSS8はスタートしてすぐに、“この路面ならタイムを上げられる”と感じた。実際、自分もタイムを詰めたけど、コバライネンも7秒詰めているので、それだけの伸びしろはあったステージだったと思う。目一杯攻めたけど、結果としてはベストの走りではなかった。その辺は今後、詰めていかなければ」と鈴木。
そして最後に、「現行車種との400ccの差はやっぱり厳しいものがある。だから、今回は(山本)悠太がいなくなったので、“ボーナス”がもらえるかなと思ったんだけど、取りこぼしてしまった」と、残念そうに笑った。

渡部が所属するチームの監督を務める川名賢は、鈴木と同じく全日本チャンピオンの経験者。「僕自身は、昨日、トップで折り返せただけでもう十分だと思っていた。今日、もの凄いプレッシャーがかかるのは自分の経験でも分かっていたからね。実際、今日の渡部の走りはひどかったけど(笑)、最終SSだけは良かった。一度2位に落ちたのが良かったんだと思う。あれで開き直れたんでしょう」と、勝負の綾を語った。
旧型勢に1-2フィニッシュをさらわれた山口は、前日と同じ4位を守ってゴールした。現行車勢としては面目丸つぶれの一戦となったが、「最終SSのトップ2台のタイムは凄い」と素直に脱帽した。そして、「次戦からは仕切り直すつもりで行かないとダメでしょうね」と後半戦での雪辱を誓った。恐らく、新旧対決が復活するのは、第7戦久万高原からということになりそうだ。その戦いの行方に、また注目していきたい。
コバライネンとの接戦を制した新井大輝ファビアR5が、伝統のモントレーで2年連続の勝利を達成!
JN1クラスは、前戦で今季初優勝を飾った新井大輝/立久井大輝(ファビアR5)が、SS1でヘイキ・コバライネン/北川紗衣(GRヤリスRally2)を8.8秒差で下して上々のスタートを切る。新井は昨年、速さを見せた碓氷峠旧道でさらなるリード拡大を狙ったが、今年はコバライネンが2本とも新井を下して逆転、0.8秒の僅差ながらトップでLEG1を折り返した。
しかしLEG2では新井がSS5でコバライネンを2.3秒差でかわして再逆転。SS6、SS7も僅差ながらコバライネンを上回ってリードを広げる。最終のSS8では前述のごとく、コバライネンが必死の追い上げを見せ、1.8秒差で新井を下すが、トータルでは3.1秒届かず。新井が前戦Rally飛鳥から2連勝を飾った。



JN2クラスは、山田啓介/藤井俊樹(GRヤリス)が、LEG1の4本のSSすべてを制する圧倒的な速さを見せてトップを快走。LEG2は2本のベストにとどまったが、この日もしっかりDAYベストをマークして早くもシーズン3勝目を獲得した。またMCC(MORIZO Challenge Cup)では大竹直生/橋本美咲(GRヤリス)が開幕4連勝を飾った。


JN4クラスは前戦で全日本初優勝を飾った藤原友貴/宮本大輝(スイフトスポーツ)がSS1で後続を13秒も突き離すスーパーベストをマーク。その後は高橋悟志/箕作裕子(スイフトスポーツ)が3連続ベストで食らいつくが、LEG2最初のSS5で藤原は高橋を6.5秒差に下すベストをマーク。この日は互いにベストを奪い合う展開となり、DAYベストは高橋が奪うも、藤原が6.1秒差で振り切って2連勝をさらった。


JN5クラスは、期待の若手、中溝悠太/佐々木裕一(ヤリス)が碓氷峠旧道で快走を見せて一旦はトップに立ったが、SS4でコースアウト。代わって首位に立った松倉拓郎/山田真記子(ヤリス)がそのリードを守り切って今季初優勝を達成した。JNXクラスは今季からRAV4 PHEVを投入した天野智之/井上裕紀子が8本中7本でSSベストを奪う走りを見せ、後続に大差をつけて開幕4連勝でシリーズを折り返した。



フォト&レポート/BライWeb