プレイバック2023全日本ジムカーナ/早くも天王山。第6戦みかわの異次元バトルは川北忠ロードスターに軍配!

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 マツダ・ロードスターの事実上のワンメイククラスとなった2023年のJAF全日本ジムカーナ選手権PN2クラス。2022年を7戦中6勝という圧倒的な成績でチャンピオンを獲得した小林規敏を軸としたチャンピオン争いが展開されると見られていたが、開幕直後から違った展開を見せた。

 開幕戦を制したのは前年をシリーズ5位で終えた期待の新鋭、小野圭一。小野は続く第2戦から第4戦まで3戦連続で2位を獲得すると、第5戦で2勝目をマーク。この前半戦だけで85ポイントを荒稼ぎして、シリーズを首位で折り返した。小林は第2戦と第4戦を制するも、その他の大会は表彰台を獲得することは叶わず、51ポイントにとどまり、前年見せた抜群の安定感は影を潜めたように見えた。

 小野に唯一、食らいついたのはベテランの川北忠。RX-7、RX-8そしてロードスターとマツダを乗り継いできたFRのスペシャリストだ。2022年のシリーズは小野に3点差の6位に甘んじたが、過去4度のチャンピオンに輝いている全日本ジムカーナを代表するドライバーの一人だ。2023年は第3戦でシーズン初優勝。第5戦までに4度、表彰台に上がり、72ポイントを獲得して小野に迫った。ただこの2台に絞った対決を見ると、小野が4勝1敗と川北を大きくリードしていた。

 第6戦の舞台ハイランドパークみかわは、スキー場の駐車場だった広場を使ったコース。パイロンでその日限りの決勝コースを設定する、フルパイロンコースだ。四国ではお馴染みのジムカーナ場だが、2022年は全日本が開催されなかったため、2年ぶりの復活となった。2022年から全日本への参戦を開始した小野にとっては、みかわの一戦は初参戦となる。

第6戦は愛媛県久万高原町のハイランドパークみかわが舞台。全日本の久万高原ラリーではサービスパークとして使われる元スキー場の駐車場に、パイロンを配してジムカーナが行われる。©BライWeb

 ただ一年目から速さを見せた小野にとっては、初めて走るということがそれほど大きなハンディになるとは思われなかった。何しろ小野は2022年、いきなり4度の表彰台を獲得したが、その内のふたつはほぼ初走行といってもいい、アウェー感いっぱいのコースだったからだ。そして2023年、全日本初優勝をさらった開幕戦もてぎ南コースも、ほぼぶっつけ本番のコースだった。

標高1,000mを超す高地にあるみかわは、アジサイで有名だが、天候が変わりやすいことでも知られ、決勝日もウェットからドライへと路面が大きく変化した。©BライWeb

 PN2クラス注目のトップ2台は、第1ヒートから異次元のバトルを展開する。中間ベストをマークしたのは川北だったが、小野が後半区間で逆転。川北に0.15秒差をつける1分16秒778でゴールし、まずは暫定ベストで折り返す。3番手のドライバーのタイムは1分18秒522。第1ヒートから、完全に2台が抜け出した。

第1ヒートは、まだウェットが残る中、果敢な走りを見せた小野がトップで折り返した。©BライWeb

 午前中、残っていたウェットは徐々に乾き始めて、第2ヒートは最初のクラスから各選手、大幅にタイムアップしたため、仕切り直しの2本目勝負となることが明らかになった。PN2クラスも2番目に出走のドライバーが1分15秒台にタイムを乗せて、あっさりと暫定ベストが更新される。そのベストを1分15秒057まで吊り上げたのはチャンピオン、小林。しかし、このまま逃げ切って、残り2戦で三つ巴に持ち込みたい小林の野望は次に走った川北によって砕かれてしまう。

 そのタイムは1分14秒311。小林の暫定ベストから0.7秒ものアドバンテージを築いたタイムに会場からため息が漏れる。そしてラストゼッケンの小野が出走。第1ヒート同様、中間では川北に遅れを取るが、その差は0.2秒とまだ射程距離だ。しかし痛恨のパイロンタッチを喫してしまい、ペナルティ5秒が加算。逆転は果たせなかった。

路面状況が大きく変わる中、川北は2.6秒のタイムアップを果たして優勝を決めた。©BライWeb

「2本目は路面は乾いたけど、昨日のようなグリップ感はなかった。路面に合わせ切れない部分もあったけど、走りながら気持ちを切り替えていって、何とか修正できたと思う」と川北。「得意の前回の北海道で勝てなくて、結局はセッティングミスだったんだけど、“もう同じ過ちはできない”と徹底的に見直したことが今日の勝利に繋がった。でも、今回のみかわは週末を通じて砂が浮いていたというか、グリップ感が足りなかった感じで、コース設定も難しかった。皆、ホントに苦労したと思いますよ」と続けた。

第3戦以来の2勝目をあげた川北。勝ち星で小野に並んだ。©BライWeb

 今季、初めて表彰台を逸した小野。ヒート2はゴールタイムでも0.011秒、川北に届かなかった。「1本目は路面を読み切れない所があったけど、2本目はこの週末の中では一番いい走りができているという感じだった。ただ本当に集中してコンマ1秒を削りに行く中で、(パイロンに)寄って行くんだけど、その寄りの度合いが今まで使ったことのない所まで使った。結果、(パイロンを)踏んでしまった。クルマを制御するという詰めはできていたと思うけど、ジムカーナ特有の距離の詰めができていなかった。経験の差、ということなんですかねぇ」と悔しさを滲ませた。

パイロンタッチに泣いた小野はゴール後、この表情。狙った前戦からの連勝は果たせなかった。©BライWeb

 だが経験では勝るはずの川北も、今回は相当に追い込まれていたようだ。「2本目のスタートの前は久々に緊張した。僕は普段は緊張しないタイプなんで、こういう時にどう対処したらいいか、思い出すのに苦労した(笑)。ここで勝てばチャンピオンが決まる、という1本より、ある意味、緊張したかもしれない」。どこまで突き抜けるかわからない若者の破壊力が、百戦錬磨のベテランの平常心を一瞬、狂わせたのかもしれない。

 この二人の勝負は当然のようにシリーズ最終戦までもつれて、終わってみれば優勝、2位ともに3回ずつと有効得点がまったくの同点で並ぶことに。3位の数も1回ずつと同じ。だが残る1戦のポイントが、4位でシリーズを終えた川北が、このみかわで8位に沈んだ小野を上回ったことで、チャンピオンは川北のもとへ輝いた。とことんまで、限界バトル。全日本ジムカーナ史上に残る名勝負だったことは間違いないだろう。

アルピーヌA110が表彰台を独占したPE1クラスは、山野哲也が優勝。©BライWeb
ウェットの第1ヒートはまさかの4位に沈んだ山野だが、第2ヒートでライバルを突き離した。©BライWeb
PN1クラスは、1本目にミスコースで最下位となった地元愛媛の朝山崇が、2本目に起死回生の走りを見せて優勝。©BライWeb
GR86/BRZ勢とロードスターRF勢がしのぎを削るPN3クラスは、野島孝宏がただ一人、1分13秒台に入れて逆転勝利を飾った。©BライWeb
野島はポイントリーダー、ユウの5連勝を阻止してシーズン初優勝をもぎ取った。©BライWeb
PN4クラスは、GRヤリスが優勢の中、ランサーで奮闘する沖縄の石原昌行がシーズン初勝利をあげた。©BライWeb
17台が参加した激戦区BC1クラスは、1本目はパイロンタッチに泣いた野原博司が逆転で優勝。©BライWeb
かつては全日本ジムカーナの主力マシンだったCR-Xだが、今回、ドライブしたのは、野原のみ。関東で腕を磨いたパイロンマイスターが、四国の地で念願の全日本初優勝をもぎ取った。©BライWeb
BC2クラスは、第1ヒートで僅差の2位に甘んじた若林拳人が逆転勝ちを収めた。©BライWeb
PN2クラスと同様、トップ2台の熾烈なバトルが展開されているBC2クラス。第3戦から3連勝を遂げた若林が、この時点では優勢に立った。©BライWeb
4WDの改造マシンが集うBC3クラスは、インプレッサマイスターの大橋渡が並み居るGRヤリス勢を両ヒートとも抑えて完全優勝を達成した。©BライWeb

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