“二刀流”は続く。ふたつの全日本選手権を股にかける細木智矢の2024年は目が離せない一年になりそうだ

 2023年、3年連続通算4度目のJAF全日本ダートトライアル選手権チャンピオンを獲得した細木智矢は、この年、自らのモータースポーツ人生にもうひとつの輝かしいキャリアを付け加えることになった。何と、全日本ダートラと並行して参戦した全日本ジムカーナ選手権においても優勝をもぎ取ったのだ。

 過去、このふたつのカテゴリーで優勝をさらったドライバーはいるが、同じ年にダブルウィンを達成したドライバーは細木が初めてだ。しかも細木はフル参戦1年目で全日本ジムカーナ選手権の一戦を制したのだから、その偉業は高い注目を集めた。

細木は2023年、全日本ジムカーナ全9戦に参戦。全日本ダートラは計5戦参戦した。©BライWeb

 現在は中国地区在住だが、細木は生まれ育った四国でモータースポーツのキャリアを始めた。父親がダートラをやっていたこともあって、細木も免許を取るとすぐに香川県さぬき市にある四国唯一のダートトライアルコース、香川スポーツランドでダートラを始めた。

 ここは狭い林道区間と、パイロンスラロームを設定できる広場で構成されたコースで、アベレージスピードはそれほど高くないが、ダートラの基本テクニックを身に着けることができる。加えてダートラドライバーとしての細木を大きく成長させたのは、広島のダートトライアルコース、テクニックステージタカタを走り込んだことだった。

「タカタをしっかり走れるようになれば、全国どこのコースに行っても通用する」という同じ四国在住の先輩のアドバイスを受けた細木は、この全国屈指の難易度を誇る高速コースに四国地区戦時代から通った。そして先の見えないブラインドのハイスピードコーナーでもしっかり踏み抜くテクニックと度胸を身に着けて、全日本にステップアップした。こうしたキャリアもあって、特に全開率の高いコースでの細木の速さには定評がある。

グラベルラリーが多かった時代には、ラリーとダートトライアルを掛け持ちするドライバーは珍しくなかったが、ダートラとジムカーナという明らかに路面が異なるカテゴリーに同時に参戦するという細木は稀有な存在だ。©BライWeb

 そしてジムカーナだ。一般にダートラほどは走行距離は長くはないし、アベレージスピードもダートラほど高くはない。一番の違いはジムカーナではパイロンワークが大きな勝負所になるというところだ。全日本ジムカーナは近年、ほとんどがミニサーキットで行われているが、そうしたコースでも、タイトなパイロンセクションが設定されるのが常だ。

「ミニサーキットのようなコースをただ走るだけなら、細木は本当に速い。初めて走るコースでもポンとタイムを出すんです」というのは、2023年も細木の全日本ダートラ&全日本ジムカーナ参戦に帯同し、チーム監督兼メカニックを務めた今村宏臣だ。元全日本ダートラチャンピオンで、本業は土系だが、チャンピオン獲得後はジムカーナに活動の拠点を移し、地元九州の地区戦等に参戦している。

全日本ダートラ時代は、いぶし銀の走りで定評があった今村。ジムカーナも知る彼のノウハウは細木にとっては強い味方だ。©BライWeb

 細木は2020年から地区戦のジムカーナにスポット参戦を始め、2022年には全日本ジムカーナにも2回参戦したが、2戦目の第6戦岡山国際サーキットの一戦で10位に入って、初の全日本ジムカーナ選手権ポイントとなる1ポイントを獲得した。

 2023年は、まず3月19日に京都コスモスパークで行われた全日本ダートラ開幕戦に出場して優勝と、幸先の良いスタートを切る。その1週間後には、栃木モビリティリゾートもてぎの南コースで開催された全日本ジムカーナ開幕戦に参戦。パイロンタッチのペナルティをもらって15位で終えたが、ペナルティ5秒を差し引いたタイムでは入賞圏内の9位だった。それほど悪い滑り出しではない。

「ただ、どうしてもダートラを走ると、ジムカーナの走りが戻らなかった。2022年も経験はしていたけど、交互に走るというのが、本当に難しいんですよ。去年はともかく全日本ジムカーナはシリーズの前半の内にしっかりジムカーナの走りを身につけたい、早くスキルアップしたいという気持ちが強かった」。ひとしきり悩んだ末に、細木は苦渋の決断をする。全日本ダートラの序盤の2戦をパスして全日本ジムカーナに専念することにしたのだ。

 4月16日、広島のスポーツランドTAMADAで行われた第2戦は、2本の決勝ヒートともに脱輪やパイロンに触ってしまい最下位という結果に終わる。しかし細木は、ここで速さの片鱗を見せる。中間までのタイムは第1ヒートは4番手を記録。第2ヒートでは実に2番手のタイムを刻んだのだ。

シーズンが進むにつれてパイロンタッチの回数は減った。パイロンは四国ダートラ地区戦で経験済みだが、「当時の経験はジムカーナではほとんど役に立たない」という。©BライWeb

 そして迎えた6月4日の第3戦は奈良・名阪スポーツランドCコースが舞台となった。名阪CコースはTAMADA同様、ミニサーキットだが、全日本ジムカーナの開催時は、スタート直後、タイヤがまだ暖まっていないタイミングでタイトなパイロンセクションを設定するなど、一筋縄ではいかないレイアウトが用意され、スラローマー泣かせのコースとして知られてきた。ただし、そのセクションを除けばイケイケの中高速コーナーも多く、踏みっぷりが問われるコースでもある。

 だが、細木はここでも開幕からの悪い流れを断ち切れず、第1ヒートは脱輪2本を喫してまたも最下位からのスタートになる。「でも自分としては、実は行けるかもという感触が持てた。大会の前、名阪の走行会で走った時にPN4クラスのトップの人達とほぼ同じタイムで走れたんです。本番でもペナルティを引いたタイムでは上位陣と同じ1分17秒台で走れて、PN4のトップ勢もやっぱり17秒台だったので、悪くはないと思っていた」
 
 その言葉を実証するかのように、第2ヒート、クラスファーストゼッケンで走った細木は、いきなり1分15秒台にタイムを叩き入れて、暫定ベストタイムを大きく塗り替える。そのタイムは結局、最終走者まで破られることはなかった。「走った感覚と実際のタイムとはズレがあったけど、ミスなく走れたとは思った。PN4で優勝した茅野選手も15秒台だったので、いい走りはできたと確信した」
 
 封印してきたダートラが名阪では優勝を運んでくれたと細木は言う。「2本目勝負になってくれたことが大きかった。ダートラは大抵、2本目で決まるので、どう1本目の走りをフィードバックするのか、という所での経験が生きたのは確かだと思う。まぁ自分の走りとクルマ、タイヤがベストで噛み合ってくれたんでしょうね。ともかく、ひとつ目標を達成できたので、嬉しさと安心した気持ちが一緒に来ました(笑)」
 
 だが、またしても苦難の日々が始まる。6月24~25日に北海道オートスポーツランドスナガワで開催された2連戦では、「経験したことのない路面に戸惑った」と2日間で僅か1ポイントを奪取するにとどまった。さらに8月6日に四国ハイラントパークみかわでの第6戦でもノーポイントと、優勝はおろか表彰台が再び大きく遠のく結果となった。
 
 これで火がついたのはダートラの方だった。「ジムカーナで結果が残せそうにない、と分かってきたので、両方とも失うのは、かなりの痛手になるな、と。ダートラで挽回するしかない。少なくともスナガワが終わった時点で、ダートラのチャンピオンは絶対獲らなければと思った」
 
 スナガワの1週間前、北陸・輪島市門前町モータースポーツ公園で行われた一戦で全日本ダートラに3戦ぶりに復帰を果たした細木は2勝目をあげたが、続く7月の青森サーキットパーク切谷内での第6戦はマシントラブルで2本目、フィニッシュできず6位と、ライバル勢に大きく水を開けられることとなった。

チャンピオン防衛が必須となった全日本ダートラでは波を掴むことができず、勝てない大会が続いた。©BライWeb

 必勝態勢で臨んだ福井オートパーク今庄でのラス前の一戦は、0.063秒かわされて2位。「この負けはかなり、きつかった」と窮地に追い込まれたが、最終戦タカタで、強心臓男は真骨頂の走りを見せる。勝負の2本目、「前半はちょっとタイヤが食わないところもあってマシンコントロールに苦労した」と中間タイムはトップから0.73秒も遅れたにも関わらず、「後半は砂利も掃けて走りやすい路面だったのでフルアタックできた」と猛プッシュ。0.05秒という僅差ではあったが、逆転優勝を果たし、全日本V3を決めた。
 
 硬軟ふたつの路面を慌ただしく行き来した2023年の感想を問うと、「今まで経験したことのない、本当に苦しくて、大変な一年だった。それでも、両方とも、やり切った、という達成感はある」と、細木は胸を張った。
 
 全日本ジムカーナ一年生として感じたことは何か。「ほとんどが初走行のコースだったので、もう少し走りたかったなというのが正直なところ。自分は金曜の練習走行からは現地に入れないので、土曜の2本の練習走行と本番朝の慣熟歩行だけでは、そのコースの持つ微妙な距離感がなかなか入ってこなかった。路面温度への対応なども難しかった」

経験が少ない分、全日本ジムカーナでは慣熟歩行からのフィードバックも、タイムアップのための重要なポイントとなる。©BライWeb

「ジムカーナは1本目からタイムを出さないとダメ。自分もタイムだけなら5、6番手につけた時もあったけど、ミスでタイムを残せてないんです。ダートラのように2本目で挽回というのは難しい世界。まず1本目でコンスタントにいいタイムを残すというのが、今年は最大の課題になると思う」

 今年も、スイフトで全日本ジムカーナに参戦する。「当然、昨年よりはいい順位を狙っていきたい。最低限、相性のいいコースではポイント稼いで、何とかチャンピオン争いも接戦に持ち込みたい。去年のように、毎戦、ウィナーが入れ替わるような展開になればチャンスは巡ってくると思う」

 全日本ダートラも今年は大きな挑戦の年になる。マシンをスイッチし、クラスも変わる。今まで乗ったことのない駆動系式の車両でのチャレンジだ。「ダートラも、今年は気持ちを新たにして臨む一年になる。ジムカーナとダートラを切り替えて乗るということを、今年はいい意味で生かせる一年にしたいですね」。

 果たして“相乗効果”で勝ち星を引き寄せることは、できるだろうか。細木なら、やれる気がする。

フォト&レポート/BライWeb