2024年の全日本ラリー選手権が3月最初の週末に開幕した。今年の全日本ラリーはターマック6戦、グラベルの2戦の計8戦のシリーズが組まれ、10月の最終戦まで全6クラスで白熱のバトルが展開される。
シリーズインを告げる一戦の舞台となったのは初開催となるRALLY三河湾2024 Supported by AICELLO。主催は昨年まで、全日本の名物ラリーとして知られた新城ラリーを開催してきたJAF加盟クラブのMASC(モンテカルロ・オートスポーツクラブ)で、同じ愛知県内ながら、太平洋を望む蒲郡市にホストタウンを移しての開催となった。
新城ラリーでも回を重ねるごとに新たなステージを用意するなど、常に多彩なラリーを開催してきたMASCが仕切るラリーだけに、今回は2日間で林道SSが4か所設定されたほか、スーパーSSもLEG1の土曜日に2か所、LEG2の日曜も前日とは異なる新たなスーパーSSが1か所設定されるなど、初開催にふさわしいバラエティに富んだものとなっている。
特にLEG1で設定されたスーパーSSの西浦シーサイドロードは、スパ西浦モーターパークのレーシングコースを周回した後に、サーキットを出て三河湾沿いの一般公道を高速で駆け抜けてゴールするという構成の斬新なステージ。また同じくLEG1で設定されたスーパーSS、がまごおり竹島は、JR蒲郡駅から至近の場所に設定されたため、そのアクセスの良さも手伝って多くのギャラリーで賑わった。
ラリーはまずLEG1で4本のステージを2回ずつ走る8本のSS、計36.54kmを経て、LEG2では3本のステージを2回ずつ走ってゴールとなる。SSの数はLEG2の方が少ないが、2本の林道SSがともに10kmを超すロングステージであるため、この日は計43.98kmを走る。計14本のSSの総距離は80.52km。路面はLEG2のスーパーSS、0.58kmのKIZUNAのみグラベルで、ターマックが主戦場となった。
JN1クラスはやはり今年一番、話題を呼びそうなクラスだ。その理由はもちん、WRC(世界ラリー選手権)にも今季から参戦を果たしたトヨタGRヤリス・ラリー2が、この全日本選手権にも、今回の開幕戦からいきなり3台も投入されたからだ。
昨年、GRヤリス・ラリー2のプロトタイプマシンを駆った勝田範彦のほか、奴田原文雄もGRヤリス・ラリー2をチョイス。そして昨年、ヘイキ・コバライネンが全日本3連覇を果たしたチーム・アイセロも、シュコダ・ファビアからGRヤリス・ラリー2にマシンをチェンジした。ただしチーム・アイセロは、コバライネンが健康上の理由により開幕戦の出場を断念。急遽、田口勝彦を起用した。
現在は全日本ダートトライアル選手権に参戦する田口だが、三菱の秘蔵っ子としてランサーを駆り、長くアジア・パシフィックラリー選手権に参戦。また三菱のワークスドライバーとして、最高峰のワールドラリーカーでWRCにスポット参戦したこともあるトップラリーストだ。ただし、田口も奴田原もマシンが届いたのは開幕戦の直前とあって、事実上はシェイクダウンを兼ねての参戦となった。
序盤からラリーをリードしたのは勝田範彦/木村裕介のGRヤリス・ラリー2。この日前半の4SSの内、スーパーSSを除く3本のSSでベストタイムを奪い、順調なスタートを切る。しかし、午後のセクションでは今年からシュコダ・ファビアR5を駆る新井大輝/金岡基成がSS6、SS7を連取して追撃を開始。この日最終のSS8も勝田がスピンした隙を突いて4.9秒差でベストを奪取。12.8秒差まで詰めて2番手で折り返した。
明けたLEG2。勝敗を大きく左右すると見られたこの日前半の2本の林道SSを制したのは勝田のGRヤリス・ラリー2だった。この2本で14秒近いマージンを築いた勝田は、後半の3本のSSもセカンドベスト、ベスト、サードベストとまとめてこの日もDAYベストで上がって、GRヤリス・ラリー2の国内デビューウィンを達成。勝田は、「乗りやすいマシンに助けられた」と、プロトタイプから順調な進化を遂げたGRヤリス・ラリー2のポテンシャルを称えた。
一方、21.2秒差の2位でゴールした新井大輝は、「ファビアの実質的なシェイクダウンだったSS1で失ったタイム差(勝田から16秒遅れ)が最後まで響いた。ドライビングのリスクを上げればもっとタイムを詰められたと思うけど、パーツが耐えられるか分からなかったし、このマシンについてはセットアップを詰める方向で速くしていきたい」と、まずはファビアのデビュー戦を無事に走り切れたことに安堵の表情を見せた。
勝田が垣間見せたGRヤリス・ラリー2のスピードについては、「走りながら、“ここでヤリスに負けてるんだろうな”と思うような局面が何度かあったので厳しいラリーだった。ただちゃんと走れた所は楽しかったし、勝負もできたと思う。ファビアもまだ伸びしろはあるはずなので、そこを今後は詰めていきたい」と振り返った。
今回、勝田と新井大輝の2台は3番手以下の後続に2分以上の大差をつけてゴールした。ナロー&ツイスティそして時にバンピーな場面もある、やや特殊な形状の林道ステージだったとは言え、トップ2台が見せたスピードは際立っていたと言える。各ドライバー、チームがそれなりのデータをもとに臨む次戦以降のターマックラリーで、今回の勢力図がどう変わっていくのか。奴田原、アイセロらのGRヤリス・ラリー2勢やラリー2の先駆者である福永修そして新井敏弘、鎌田卓麻のスバル勢の巻き返しも期待したいところだ。
JN2クラスは13台が開幕戦に出走した。この内、7台が今年から始まった若手育成プロジェクトであるMORIZO Challenge Cupへエントリーした若者達が駆るGRヤリスだ。昨年のチャンピオンである奴田原文雄がJN1クラスへ移ったため、本命不在の戦いが見込まれた。
LEG1で速さを見せたのは、2021年に86で全日本チャンピオンを獲得した大竹直生/藤田めぐみのGRヤリスだった。トヨタのWRCチャレンジプログラムに進んだ大竹はヨーロッパのラリーで揉まれた速さを見せつけ、5本のSSでトップタイムを奪うが、最終のSS8でコースオフ。マシンを痛め、リタイヤとなってしまう。
LEG2に入ると大竹に代わってトップグループに浮上した山田啓介/藤井俊樹と貝原聖也/西﨑佳代子の2台のGRヤリスが互いにベストを奪い合う大接戦を展開するが、最後は山田が貝原を6.1秒差で振り切った。MORIZO Challenge Cupを狙う2台に続く3位には、SS8でベストを奪った石川昌平/大倉瞳のGRヤリスが入った。
昨年、GRヤリスを駆り、久万高原ラリーで奴田原に競り勝って一躍注目を浴びた山田は、「GRヤリスに一年先行して乗っている分、結果を残さなければというプレッシャーが正直あったが、今年のクルマについてはまだよく分かってない部分もあるので、今回はまずはしっかり走り切ることを目標に走った。結果的には生き残れてタイムも残せて勝てたので、狙い通りのラリーができたと思う」と振り返った。
大竹のスピードについては、「LEG1は自分はプッシュできていなかったので、限界の走りをした時に、どんな差になるのか。次の唐津が自分でも楽しみ。セッティングもドライビングも詰め所は見えているので、次戦以降、結果に繋げていきたい」と抱負を語った。
一方、GRヤリス初ドライブながらトップレベルのスピードを見せた貝原は、「正直、もっと一方的な展開になるのかと思ったけど、勝ったり負けたりのバトルができたので、そこまで悲観的にならずに済みそう(笑)。GRヤリスは最初は曲がらないクルマだなと思ったけど、走らせ方が分かってきたので、今は運転が楽しい。自分はメカニックと連携しながら、ドライビングやセットアップを掴んでいくスタイルなので、まだ詰める余地があるいまのセットで、これだけのタイムが出せたのは、とりあえず良しとしたい」と、こちらも自信を覗かせた。
以上のように開幕戦はMORIZO Challenge Cup勢の速さが目立ったこのクラスだが、今回、LEG1は僅差の2位で折り返した三枝聖弥や、石川をはじめとするJN2残留組の巻き返しも次戦以降、期待したいところだ。
GR86、BRZが集うJN3クラスは、ほぼ昨年から顔ぶれの変化はなし。今回の一戦はディフェンディングチャンピオンの山本悠太/立久井和子のGR86がSS2から3連続ベストと速さを見せ、ラリーをリードする。午後のセクションでも山本はコンスタントに好タイムをマークして、首位を維持してLEG1を終了。
明けたLEG2でも4本の林道SSとスーパーSSをすべてベストで上がって完全制覇。「クレバーに走れて、そこそこ全体のタイムも良かったので」と山本は総合10位、2WDトップのタイムでゴールしたことに笑顔を見せた。
「実は今回のような道は好き」という山本は、「ただリスクが高い道でもあるので注意しないといけなかったけど、シーズンオフの間にクルマがかなり良くなって無理しなくともタイムが出せるようになったので、今回はクルマに助けられた。GR86も3年目ということで見えてきた部分もある」と手応えを感じた様子だ。
昨年の最終戦でぶっちぎりの速さを見せ、今季の活躍が期待された長﨑雅志/大矢啓太のGR86は林道で山本に着いていくことができず、今回は40秒も水を開けられたが、最後まで2位の座を守った。
「昨年の最終戦とは道のキャラクターが違い過ぎて最後まで苦労した」とは長﨑。「ただ去年、テストでGR86のおいしい所を見つけられてはいるので、今年はそれをまた形にしていきたい。(山本という)ベンチマークがあるので、そこを目標に頑張れるのは大きい」と次戦以降のリベンジを誓った。今回の一戦で一発の速さを見せた山口清司、上原淳といったベテラン勢の巻き返しも期待したいところだ。
ZC33S型スイフトスポーツの事実上のワンメイククラスとなっているJN4クラスは、昨年、最終戦で劇的な逆転チャンピオンを決めた内藤学武/大高徹也が、クラストップに立った直後のSS4で下回りをヒットしてリタイヤという波乱の展開となる。
ここで首位に立ったのは3年ぶりに全日本に還ってきた高橋悟志/箕作裕子のスイフトスポーツ。昨年の最終戦で敗れ、V3を逃した西川真太郎/本橋貴司はこのSS4でベストを奪うが、SS2でのタイムロスが響いてこの時点では2番手。それでもSS5、SS6を連取し、一時は高橋に2.4秒差まで迫ったが、この日最後のSS8で高橋は西川を6.5秒差に下すベストタイム。10.8秒までマージンを広げて折り返した。
明けたLEG2。最初のSS9では高橋がベスト。西川も3.5秒差で食らいついたが、続くSS10では高橋が17.4秒も西川を突き放す圧巻の連続ベストをマークして独走態勢に。後半のセクション2でもSS12でベストを奪うなど最後まで手綱を緩めなかった高橋が優勝。2位西川のチームメイトでもある須藤浩志/新井正和がラスト2本のSSを連取し、3位に浮上してゴールした。
2020年最終戦以来の勝利を飾った高橋は、「3年前にはなかった新しいタイヤとのマッチングも含め、準備してきたことが当たった」と満を持しての復活デビューウィンに手応えを感じた様子。一方、西川は、「昨日の路面が思ったよりグリップしてくれた半面、突然、滑ったりしたこともあったので、今日はちょっと安全方向に振り過ぎた走りをしてしまった。内藤選手がいなくなったラリーでの2位はちょっと痛いが、次の唐津で取り返す」と次戦を見据えていた。
当初、内藤、西川のトップ2のバトルが再燃かと思われたこのクラスだが、高橋の参入でその構図は崩れそうだ。須藤もグラベルでの速さを併せ持つだけに、舗装で高ポイントを積み重ねることができれば、後半戦の台風の目になる可能性がある。全日本ラリーを知り尽くす高橋、須藤というチャンピオン経験者の走りが、どうこのクラスを搔き回すか、要注目だ。
JN5クラスは、昨年、グラベル2連戦を制して一気に初チャンピオンを決めた松倉拓郎が、悲願としていたターマック初優勝を早くも開幕戦で達成した。LEG1を首位で折り返した松倉/山田真記子のヤリスは、LEG2ではタイヤ戦略が奏功して、前半の2本の林道SSでライバルを大きく引き離して一気に勝負を決めた。
チャンピオン奪回を狙う大倉聡/豊田耕司は今季もヤリスCVTを駆るが、松倉に思わぬ1分近い大差をつけられることに。「西浦のようなサーキットでは凄く動きが良かったけど、今回の林道のようなストップ&ゴーが多い道は松倉ヤリスには敵わなかった。タイヤ選択も何度かミスったけど、思った以上にやられたのは悔しい。次の唐津は今回と違ってコーナーリングが続くような道なので、イケると思う」とリベンジを誓った。
注目すべき速さを見せたのが、大倉を1.3秒の僅差ながら抑えて2位に入った河本拓哉/有川大輔のデミオだ。昨年の久万高原ラリーで全日本初優勝を飾り、その速さは証明済みの河本だが、林道SSでは松倉を抑えて2度、ベストタイムを奪うなど、トップ2に肩を並べる速さを見せ、「今年は間違いなく三つ巴のバトルになると思う」と大倉に言わしめた。
当の河本は、「去年勝った久万高原とは道の形状は違うけど、泥の出ている感じとか荒れてる所が似ていて、自分の好きな道だった。きっちり攻められている感触があったので、たまたまだろうけど(笑)、自分のクルマと走りが今回の道と噛み合ったんだと思う」と謙遜したが、「クルマの限界も高い感じが持てた」とデミオの戦闘力を改めて認識した様子。今季のグラベル2戦への参戦は未定とのことだが、ヤリスvsデミオのバトルも白熱しそうだ。
JN6クラスは、絶対王者の天野智之/井上裕紀子が駆るアクアが今回も全SSを制覇というスピードを見せて優勝。幸先の良いスタートを切ったが、実はLEG2のスタート前のサービスでマシントラブルが発覚。修復に時間がかかり、2分のタイムペナルティをもらうひと幕があった。このため天野は、自身が「LEG1よりもリスクが高くなる道が用意されている」と語っていたLEG2のステージをペナルティのロスを埋めるべく、攻める必要があり、結果的には、それでもなお後続に1分以上のマージンをつけることができたものの、ハードな一戦となったようだ。
このクラスは今年も天野の優勢は否めないが、今回のように何かあった時に、すぐ後ろにいるというのがライバル勢には勝利への重要な要件になるはずだ。ハイブリッドやCVTなど次世代を担うラリーカーが揃うこのクラスのバトルにも注目していきたい。
フォト&レポート/BライWeb