JAF関東ダートトライアル選手権は、4月7日に栃木県の丸和オートランド那須で行われたFSCダートトライアルで今年のシリーズがスタートした。開幕を待ちわびた111台が集結。初戦から熱いバトルを繰り広げた。
今年の関東地区戦は全7戦で行われる。今回の丸和と、長野県野沢温泉村にあるモーターランド野沢で各3戦ずつを開催。そして昨年からコースが再開された千葉市のオートランド千葉で1戦が行われる形になっている。今年は真夏の8月の開催はなく、7月21日の丸和での第5戦から2か月のインターバルを経て、9月22日に第6戦が野沢で行われ、10月6日に丸和で行われる第7戦でシリーズは幕を閉じる。
クラス分けは昨年と同様、7クラスが設定された。最もノーマルに近い車両規定に基づくPN車両は3クラスに分かれるが、PN1、PN2の2クラスについては、それぞれN車両との混走とする。現行車両など比較的新しい車両が多いPN車両に対して、N車両は国内のダートラで主力マシンとして活躍した旧型のシビック、ミラージュ、インテグラ等が揃う。旧型といっても全日本でも活躍したマシンだけに戦闘力は高い。そのため、排気量などで調整し、PN車両とイコールに近い形で競えるようなクラス分けがなされている。
関東地区にはもうひとつJMRC関東ダ―トトライアルシリーズがあり、今年も全戦、関東地区戦とダブルタイトルで行われる。JMRCはJAFに加盟するクラブの団体で、全国各地で地区戦と併催する形でシリーズを設定しているほか、初中級者対象のシリーズを独自に行っている。JMRC関東ダートラシリーズでは、今年からJAFのBライセンスがなくとも参加できる初級者対象のチャレンジクラスを2クラス設定し、若手を中心としたビギナーの育成を図ることになった。
通常、こうしたライセンス不要のクラスは、クローズドクラスと呼ばれるが、クローズドの場合はシリーズ表彰の対象とならない場合がほとんどだ。しかしこのチャレンジクラスは、シリーズチャンピオンはシーズンエンドに行われるJMRC関東ダートフェスティバルで表彰され、なおかつ、このフェスティバルに無料で招待されるという特典がつく。
「これまでクローズドクラスは、イベントごとに任意で設定されていましたが、以前あったJMRC関東ジュニアシリーズのような初中級者対象のシリーズを地区戦と一緒にできないかということで作りました」と語るのは、JMRC関東ダートトライアル部会の古沢和夫部会長だ。
「ここで実際に走ってみて、地区戦のドライバーとタイムを比べてもらって、そんなに差がつかなくなったな、となれば上のレベルにも目を向けてもらう。そんな自信をつけてもらえるシリーズにしたい。丸和の大会については、丸和カップの練習のつもりで出てもらえると嬉しいですね」と古沢部会長。
丸和カップとは、丸和を舞台としているシリーズで、初級者から地区戦ドライバーまで、幅広い層のドライバーが集ってクラスごとに丸和スペシャリストNo.1を競う。決勝トライが3本あるのが特徴だ。ただし今回の大会でも、2本の決勝のトライの前に決勝のコースを一度走るウォームアップ走行が設定された。順位決定は決勝2本の内のベストタイムで競うが、丸和カップ同様、3本走れる形としている。
「3本制は今年、別に決め事にしたわけではありません。ただ、今回のように主催者が工夫して新しく実施したことに対して、参加したドライバーの声を聞きながら、主催者と参加者の間の距離を少しでも近いものにして、楽しい競技会にできればと思っています」と古沢部会長。チャレンジクラスは今回、2クラス合わせて17台がエントリーと上々のスタートを切った。地区戦のクラスについても、昨年の開幕戦より参加台数増となっただけに、チャレンジクラスともども、今後の盛り上がりを期待していきたいところだ。
N1500&PN1クラスは、1分51秒台にタイムを乗せたシードゼッケンの布施浩之が第1ヒートをトップで折り返すが、第2ヒートに入ると柿澤廣幸のヤリスが1分49秒40でゴールし、ターゲットタイムを大きく吊り上げる。一方、布施は、「ぶっちぎろうと気合が入り過ぎて、やり過ぎてしまいました」と50秒の壁を破れず、再逆転は果たせなかった。
しかしラス前の清水涼矢のデミオが、チームの先輩である柿澤のタイムを0.38秒上回って逆転に成功。そのまま逃げ切った。0.04秒の間に3台がひしめいた3位争いは全日本ドライバーの飯島千尋が制し、このクラスは長野勢が表彰台を独占する結果となった。
N1&PN2クラスは、昨年、シビックでS1クラスのタイトルを獲得した小山健一がスイフトスポーツATでエントリー。ストーリアX4で昨年もこのクラスのタイトルを防衛した杉谷永伍との直接対決が注目されたが、両ヒートとも小山が制して快勝。2週間前の全日本ダートラ開幕戦を制した速さを見せつけた。
PN3クラスには、2週間後に控えた全日本ダートラ第2戦の丸和大会を見据えて、全日本のレギュラードライバー達がエントリーしてきた。第1ヒートではその一人、中部から遠征してきたパッション崎山がベストタイムを奪うが、第2ヒートでは同じく全日本組の佐藤秀昭がBRZ-ATでそのタイムを塗り替えてトップに浮上する。
ラストゼッケンの昨年のチャンピオンで関東期待の若手、森戸亮生は崎山のタイムは超えるも、佐藤には0.2秒届かず、2番手でゴールとなった。「久しぶりに表彰台の一番高い所に上れました。どんな大会でも、やっぱり一番は嬉しい」と、佐藤は勝利の美酒に酔ったが、「でもここで運を使い果たしたかもしれないので、全日本はダメかも(笑)」と苦笑する一幕も。一方、森戸は、「かなり気合を入れて走ったんですが、届かなかった。その借りは2週間後の全日本でぜひ!」とリベンジを誓っていた。
N2クラスは、第1ヒートでシード勢が1分44秒台に留まる中、1分42秒台のぶっちぎりのタイムを叩き出した中島明彦がベストタイムを奪取。中島は第2ヒートでもただ一人、1分41秒台に乗せてライバルを寄せ付けず、快勝した。
昨年までS2クラスに参戦していた中島は、「N車両で敢えて上のクラスに出ていましたが、今年はイコールコンディションのクラスで戦ってみたかった」と今季はN2クラスにエントリー。「ダートラ人生で、初の優勝です!最高に嬉しい」と、格別の勝利に喜びを爆発させていた。
S1クラスは、これまで壁の如く立ちはだかっていた王者、小山健一がN1&PN2クラスへ移ったことで、今年は群雄割拠が予想されている。その中、注目の初戦では若手の平川慶一が第1ヒートでトップに立つ。今季からスイフトスポーツに乗り換えた平川は、路面が掃けた第2ヒートで超硬質路面用のスーパードライタイヤを選択。
「ストレートは確実に速かったので、そこでしっかりタイムを稼いで、コーナーでは、ふらつかないように冷静に攻めました。タイヤが路面に食いつきすぎて、ドライバーが置いて行かれるような所もありました」という走りで、自らのベストタイムを2.1秒更新。ライバルに2秒近い大差をつけて、約5年ぶりとなる地区戦優勝を飾った。
S2クラスは、今回も大会最多の21台がエントリーと大激戦区となった。第1ヒートは、ディフェンディングチャンピオンの宮地雅弘が断トツの1分41秒台を叩き出して折り返すが、第2ヒートではラリーストとしても知られる増村淳が、宮地のタイムをきっちり1秒更新して、シード勢の走りを待った。しかし増村がマークした1分40秒10はシード勢にとっても難関のタイムとなる。ラストゼッケンの宮地も0.3秒差まで迫ったが、逆転は果たせず、増村の逃げ切りを許す結果となった。
オーストラリア、ニュージーランドといった南半球の国際格式ラリーに長く参戦していた増村は、昨年、全日本ダートラでもハイスピードコースとして知られる北海道のオートスポーツランドスナガワの一戦で優勝した。高速ラリーで磨かれた速さを見せた増村は、「全日本の練習で今回は走らせてもらいましたが、まあまあ納得の走りができました」と、全日本2勝目に向けて好感触を得た様子だった。
大会のトリを務めるのはDクラス。最も改造の自由度が高いクラスなので、結果、いつもオーバーオールウィンいわゆる総合のベストタイムを競うクラスになる。第1ヒートで、このクラスの凄さを象徴するかのようなスーパーベストを叩き出したのは、シード勢の一角、國政九磨のインプレッサ。ただ一人、1分40秒の壁を突き破ったばかりか、一気に38秒台まで叩き入れて断トツの首位に立つ。
第2ヒートに入っても國政のタイムは破られることなく、本人のトライへ。しかし再び38秒台をマークするも、僅か0.08秒のタイムアップに留まる。残るは2台。後走の星野伸治は0.2秒差まで迫るも逆転はならなかったが、最終ゼッケンの森正のランサーが、土壇場で1分37秒台をマーク。劇的な逆転優勝を飾るとともに、文句なしのオーバーオールウィンを達成した。
「(ランサーは)久々に乗ったので、最初は乗りこなせないんじゃないかと思ったけど、何とか勝てて良かった」と2023チャンプの貫録を見せた森。昨年はシリーズ3位に終わった國政も、「オフの間にクルマを直して、だいぶ感触が良くなったので、今年はもっと上を狙っていきたい」と、敗れたとは言え、確かな手応えを得た一戦を納得の表情で振り返っていた。
チャレンジクラスの内、2WD車を対象としたCHA1クラスは、12台がエントリーした。第1ヒートはスイフトスポーツを駆る坂下文哉が宮地拓也を0.1秒差で従えて首位に立つ。坂下は路面が好転した第2ヒートでも、5.5秒のタイムアップに成功。2番手に浮上した大野俊介を1.29秒差で振り切って優勝を飾った。
4WD車対象のCHA2クラスは、ランサー1台に対してインプレッサが4台とスバル車が優勢に。この中、今年からGDBインプレッサを駆る大野優太が、第2ヒートでただ一人、1分50秒を切る1分49秒26をマーク。1本目は大野に3.4秒差をつけられた安藤博隆も大きくタイムを上げ、1分50秒台に乗せてくるが、大野には1秒及ばず。大野が快勝した。
フォト&レポート/BライWeb