開幕戦から5戦続いてターマックラリーが続いた2024年の全日本ラリー選手権は、7月5~7日に北海道で開催されたARKラリー・カムイで、シーズン初のグラベルラリーを迎えた。
ラリーのフィールドとなったのは北海道虻⽥郡のニセコ町、倶知安町、真狩村と磯⾕郡蘭越町の4町村。札幌に拠点を置く主催のTEAM ARKは長く全日本ラリーを開催してきたクラブだが、札幌以西のエリアでの開催が多く、これまでもキロロリゾートや洞爺湖温泉といった観光地を拠点として開催してきた。数年前からはニセコに腰を据えたラリーを続けている。
ラリーはLEG1、LEG2とも3本の林道をサービスを挟んで2回ずつ走る12SS、90.00kmで行われた。最長はLEG2のORCHID SHORTで12.12km。最短は同じくLEG2のNEW SUN-RISE3.59kmで、その他は5~9km程度のSSが配される。
北海道の林道ゆえアベレージスピードはやはり高めで、最速のJN1クラスではほとんどのSSで80km/hを超える。特にLEG2の3本は80km/h台後半となり、最終のSS12の総合ベストは今回、91.8km/hをマークした。ただし概して道幅はそれほど広くはないため、高い集中力が求められるステージが多い。
加えて今回は2日間ともウェット路面のラリーとなった。道の形状も多岐に渡り、路面の真ん中から両側に緩く傾斜していく“カマボコ”状のダートもARKのラリーでは時に待ち受ける。今回は雨が続いたことで、難易度がさらに増す結果となった。
SS1で早くも4台がリザルトから名前が消えた今回の一戦は、サバイバルラリーを予感する展開で始まった。そんな中、GR86、BRZが主力マシンとなっているJN3クラスは、全車がSS2までを走り切り、まずは順当な滑り出しを見せる。
この中、トップに立ったのは加納武彦/横手聡志のBRZ。前戦モントレーで今季初参戦を果たした加納は元々、グラベルを得意とするドライバーだが、シリーズランキングの上位陣を抑えてSS1、SS2を連取し、スピードを見せつける。「最初から全然、(コンディションが)安定しない道で、クルマが横向きっ放しで、何度も道からこぼれるかと思ったけど、幸いベストが獲れた。SS2は若干、セットを大人しい方向に変えて走ったけど、ベストがまた獲れたので、ちょっと気を良くしてSS3に臨んだ」と加納。
そのSS3 HOT SPRINGは途中に舗装区間が出てくるステージ。ウェットということもあって、ドライビングの切り替えが難しいSSだ。そして、あろうことか、加納が、このステージで最初の犠牲者になってしまう。「舗装が混じると昔から自分はダメなんですよね(笑)。長い舗装の直線の先のコーナーを、8だと思って入ったら4だった。曲がれるわけがない(笑)。ペースノートの聞き間違い。油断したつもりはなかったけど、去年のラリー北海道もトップに立ってたのに逆転されたでしょ。どうも、こればかりは仕方がない」と、悔しさを滲ませた。
だがリタイヤの連鎖は止まらない。SS4では上原淳/漆戸あゆみのBRZがリタイヤ。そしてSS5では、2番手につけていたポイントリーダー、長﨑雅志/大矢啓太のGR86もコースオフにより、戦線離脱となってしまう。
1ループ目で加納がリタイヤした魔のSS6 HOT SPRINGを走り切って無事にサービスに戻ってきたのは僅か3台。トップで折り返したのは、前戦モントレーを制した山本悠太/立久井和子のGR86で、ベテラン曽根崇仁/竹原静香のGR86が2番手に続いたが、その差は16秒とやや水が空いてしまう。曽根から30秒以上も遅れてしまった山口清司/島津雅彦のGR86が3位につけた。
暫定トップに立った山本は、「ボチボチだけど、タイム的にはもう少し詰めたかった。ダンパーを新しくしてきたんだけど、事前にあまりテストができなかったので、今日も、“もっとセットを煮詰められるなぁ”と思いながら、運転していた」と振り返った。
そして、「皆、ダートで落ちてたけど、僕はHOT SPRINGの舗装区間が一番、危ないと思っていた。グリップが全く分からなかった」と、加納をリタイヤに追い込んだステージで神経をすり減らしたと明かした。「SS2までのタイム差なら、まだそんなには無理しなくともいいかなと思っていたら、加納さんの方が先に消えてしまった。リードできた後はともかく落ちないように気を付けた」
「明日は、今日一日走って新しいセットの感触は掴めたので、不安感はなくなった。自分のペースを乱さずに走りたい。ただラリー北海道に向けて、しっかり足も煮詰めたい。そうしないと、去年みたいに、また加納さんに行かれちゃうと思うので」と、最終日も消えたライバルを指標にすると話した。
一方、2位でLEG1を走り終えた曽根は、セッティングを外したSS1を悔やんだが、変更したSS2以降は、山本とほぼ同タイムをマーク。最終のSS6では山本を6.1秒差で下してベストタイムを獲得しただけに、16秒というタイム差も、「20秒を切る所まで詰められたので、明日は作戦を練って何とか逆転したい」と、逆に闘志に火をつける形となった。
明けたLEG2。最初のSS7は山本がベストで上がるも、曽根も0.2秒差で食らいつく。だが、SS8では3.7秒、SS9では7.0秒、ともに山本が曽根を下してリードを拡大する。「何かやらないと勝てないと思ったので、リアの2本だけウェットタイヤを履いた」と曽根。「コーナーの立ち上がりは速かったけど、回り込むような所ではFRではやっぱりキツかったかな。一長一短だったと思うけど、もう悠太が滅茶苦茶、速かった。1ループ目の3本が終わった時点で2位キープに切り替えた」
2ループ目に入っても、山本のペースは落ちず、SS10、SS11と連続ベスト。しかし最終のSS12で大波乱が起きる。ステージ後半を過ぎたあたりで、何と山本のGR86は駆動系トラブルに襲われてストップしてしまったのだ。
「悠太は可哀そうだったけど、ともかく道が悪かったので、何とかゴールまでは走り切ろうと、悠太の横を過ぎた後は、若干ペースを落とした。最後はペース落とし過ぎたくらいに思って、まくられるほどのタイム差ではないと思ったけど、SSの距離が長かったので、山口君のタイムを見るまではドキドキした」と曽根。しかしこの日もペースを上げられなかった山口が曽根を逆転することはなく、曽根がシーズン初優勝を飾った。
終わってみれば完走2台というサバイバルバトルを制した曽根は、「ラリーカムイでこんなにヤバイ路面は初めて。洞爺の時代も雨はあったけど、こんなにひどいイメージはなかった。いつもとは違う形のワダチも若干あったし、ともかくクルマが壊れなくてよかった。結果としては、今日の後半、クルマを労わって走ったのが良かったんでしょう」と胸をなでおろした。
曽根にとって、グラベルでのGR86は通算3戦目にして初勝利。「だいぶ扱い慣れてきたけど、先代よりはじゃじゃ馬というか、探りにくい所もあって、結構、神経使わないといけないクルマ。正直、今日は行けると思ってたんだけど、あのコンディションの中であれだけのタイムを出す悠太はさすが、としか言いようがない。まだまだ運転もセッティングも詰めていかないとダメだね」と課題も見えた一戦だった様子。
「でもホントに勝つというのは大きい。今までも、リードしてたけど止まっちゃったという、逆の立場になったことも何回かあったからね(笑)。今日くらいは勝たせてもらってもいいでしょう」と、最後は相好を崩した。GR86の進化バトルは、まだまだ続きそうだ。
フォト&レポート/BライWeb