2024年の全日本ダートトライアル選手権は全8戦が組まれていたが、6月に第4戦として開催予定だった石川県の輪島市門前町モータースポーツ公園の一戦が、1月に起きた能登半島地震により中止が決定されたため、全7戦のシリーズとして行われることになった。
その内訳は、北から北海道オートスポーツランドスナガワ、青森サーキットパーク切谷内、福島エビスサーキット新南コース、栃木・丸和オートランド那須(2戦開催)、京都コスモスパーク、広島テクニックステージタカタというもので、7戦中5戦が東日本での開催となった。
中部地区では、門前とともに福井のオートパーク今庄が長年にわたり、全日本の一戦を担ってきたが、2023年を以てコースが閉鎖となったため、2024年のシリーズには組み込まれなかった。中部を代表してきたふたつのコースがシリーズから消えたために、東日本開催の比重が高くなったのだ。
このため、2024年は中部地区で活動するドライバーにとっては厳しい一年となった。何といってもホームコースが、一度にふたつもなくなってしまったのだから。そしてそれは、全日本を追う中部のドライバーにとっては、2024年は全戦が“アウェー”の戦いとなることも意味していた。
ダートトライアルは、決勝日の朝に発表されるその日限定のコースレイアウトを走る競技だ。地元のドライバーでさえ、“こんなコース設定は見たことがない”ということも時にあり得る。その意味でいえば、レイアウトが一定であるレーシングコースほどは、ホームコースを走り慣れたドライバーのアドバンテージは高くないとも言える。
しかし全日本ダートラでは、そのコースの名物コーナーは、ほぼ毎年使われるというのも事実。門前で例えれば、高速で飛び込む「ギャラリーコーナー」とその先に続く「コークスクリュー」は全日本でも定番のレイアウトだ。コークスクリューは全国でもまず例のない、コーナーの先がまったく見えないクレスト(丘越え)のコーナーで、急勾配で下ったその先にはタイトな左コーナーが控える。初見のドライバーにはなかなかに難易度が高いコーナーだ。もうひとつのホームコース、今庄も先が見通せないブラインドコーナーが多い、テクニカルなコース。これまで多少なりとも地の利が味方してくれた中部の全日本ドライバー達にとって、ポイントの稼ぎ所が消えてしまった2024年のシーズンは、これまでにない戦略が求められるシーズンになった。
今回、青森のサーキットパーク切谷内で行われた第5戦(実質上は第4戦)の中で、15台が参加したPN1クラスは、いわゆるコンパクトカーが集うクラス。ZC32S型と呼ばれる現行から2代前のスイフトが7台と最も多く、以下、フィット、デミオ、ノートといった車種が集う。2023年はヤリスを駆った北海道の若手、徳山優斗がチャンピオンを獲得したが、今回エントリーしたヤリスは1台のみに留まった。
第1ヒートでベストタイムを奪ったのは奈良勇希。京都で学生時代を送り、現在は中部在住の奈良は、2023年9月に今庄で行われた一戦を制した、“半中部”とも言える若手成長株だ。北海道から津軽海峡を越えてやってきた大場元貴が0.2秒差の2位につける。地元北海道で行われた前戦で4位に入賞した大場も、その大会を制した内山壮真とともに北海道が誇る大型新人の一人だ。
しかしドライ路面が保たれたこの日は、第1ヒートの走行で砂が掃かれて硬い路面が顔を出す第2ヒートになると、開始直後から各ドライバーともタイムアップ。奈良と大場が第1ヒートでマークした1分40秒台のタイムも、クラス3番目の出走となった原靖彦が1分38秒台でゴールし、あっさりと更新される。
原の2台後に走った大場は1分39秒台にとどまり、首位奪還はならず。原のタイムはラスト5台のシードゼッケン勢まで更新されなかったが、その一番手、本道治成のデミオが1分37秒台に叩き入れてトップに立つ。北陸在住の本道は2023年6月に行なわれた門前の一戦で全日本初優勝。今庄の一戦でも3位に入賞し、シリーズ6位を獲得してシードゼッケンを確保した。地元ではしっかり結果を残した一年だったが、今季はまだスナガワの6位が最上位と表彰台には登れていない。
続く長野の飯島千尋そして奈良は中間タイムでは本道を上回るも、いずれも1分38秒台に留まって逆転は果たせず。本道と同じデミオに乗る広島の太田智喜も38秒台後半のタイムでゴールとなる。残るは地元青森の工藤清美。コースの隅々まで知り尽くした切谷内スペシャリストだ。
今季の序盤はフィットのAT車で戦ったが、やはり戦闘力不足は否めず、この大会から乗り慣れたMT車に戻してきた。しかしその工藤も前半区間で0.24秒、本道に遅れを取って後半区間へ。その差はさらに広がって、工藤も38秒台を切れずにゴールとなる。結果、本道の今季初優勝、そしてアウェーでは初となる全日本勝利が確定した。

「2本目は(超硬質路面用の)スーパードライタイヤを履いた人もいたけど、自分は対応できないので(笑)、通常のドライタイヤで走った。1本めはウェットタイヤで走ったけど、感触が良かったので、2本目はちょっとグリップ上がったくらいの路面になってくれて、そこでペースアップできればいいかな、というくらいの気持ちだったけど、その通りの路面で走れた。ゴールした時は、もっと、ああすれば良かった、こうすれば良かったと悔やんだけど、勝ったから、もう、OK(笑)」と本道。
「ここの路面は本当に難しい。今庄と雰囲気は似てるけど、今庄の路面は全部硬質で一定だから、リズムだけコーナーに合わせた走りをすればいい。でもここは、コースの中でのグリップの差が大きいので、そこにその都度、対応できるかがポイント。自分自身はここはまだ3回目なので、ドライビングの詰め所はまだあると思うし、デミオでも、まだまだ行ける」と切谷内の印象を語った。
「今年はポイントも伸びず、門前も今庄もないので、ここに来るまでは、正直、ダメな一年になるかも、と思っていた。でも、なぜか昨日の公開練習を走ったら、凄く楽しかったんですよ(笑)。その高いテンションのまま、今日も走れたから、イメージ通りの走りができたんだと思う。もう、どうしようもないから、ここで何か一つやるしかない、と気持ちをリセットできたというか、腹を括れたのが良かったんでしょう」と、最後は安堵の表情を見せた。

開幕から4戦を経過した時点で4人のウィナーが誕生と混戦模様のPN1クラスに対して、PN3クラスは2023年のチャンピオン、竹本幸広が開幕から2連勝。前戦のスナガワでも2位に入り、断トツのポイントリーダーとして切谷内に乗り込んできた。次戦のエビスサーキットは、福島在住の竹本にとっては超がつくホームコース。ここ切谷内を獲れば、V2の可能性がぐっと高まる。
その竹本はこの切谷内でも絶好調。第1ヒートは、ただ一人、1分39秒台に入れるぶっちぎりのタイムでゴールするが、パイロンペナルティで5秒の加算を受け、入賞圏外に甘んじる。暫定トップタイムをマークしたのはスナガワで竹本に土をつけたパッション崎山。現在は愛知県在住だが、元々は北陸の出身で、門前でキャリアをスタートさせた一人だ。竹本のゴールタイムには及ばなかったが、こちらもただ一人、1分40秒台に乗せて上々のスタートを切った。
注目の第2ヒートは、やはり崎山の暫定ベストは早々に更新されて仕切り直しに。シードゼッケン勢の二人目、BRZを駆る小関高幸が最初に1分38秒を切ってベストを塗り替える。しかし直後に出走の崎山がすかさず、37秒は切れなかったものの、0.9秒近くも小関のタイムを凌いでトップを奪い返した。
一年前のこの切谷内の一戦を制した富山の浦上真も37秒台に乗せてくるが、崎山には0.3秒及ばず。このままいけば、中部勢が1-2フィニッシュだ。しかしラストゼッケンの竹本は、前半区間で崎山を0.3秒上回ってくる。だがこの直後、竹本はまたもや痛恨のパイロンタッチ。2本とも勝負に絡めるタイムを残すことはできず、まさかのノーポイントに終わってしまう。2連勝を飾った崎山は、竹本がポイントをまったく上乗せできなかったため、ポイントリーダーに浮上。悲願の初タイトルへの扉をこじ開けた。

「今回も竹本が圧倒的に速かったので、今日の勝利については、運が良かったとしか言いようがない。ただ勝ち星で並んだというのは大きい」と崎山。「多分、ダンロップ勢の中では自分だけ1本目からドライタイヤを履いて行ったと思うけど、2本目はもう迷いなくスーパードライで。でも(スーパードライタイヤで)タイムを稼げるラインが狭くて、難しかった。ふらついてラインから外れそうになった場面もあったけど、何とかリカバリーできた」と限界の走りを振り返った。

ライバル達に比べるとGR86への乗り換えはやや遅れ気味ではあった崎山だが、「乗り方も段々分かってきたので、いまは安定して表彰台に絡める感じはある」と自信を覗かせた。2015年の今庄を制して、その名を轟かせた崎山は、2016、2017年には門前で2連勝。しかし地元での優勝は、2023年までお預けに。その代わり、オートスポーツランドスナガワ、テクニックステージタカタといった全国屈指の高速コースでこれまでに通算5勝を獲得している。切谷内の初優勝は、また一歩、全国区のドライバーへの成長を遂げた証となった。






終わってみれば、2クラスを制覇した中部勢。タイトルを手繰り寄せたドライバーもいれば、遠のいたドライバーも、という悲喜こもごもの一戦となった。ただし2025年は全日本が再び中部に還ってくる。三重県の新コース、いなべモータースポーツランドで開幕戦を含む2戦が開催されることがすでに決定済みだ。
ただ、いなべは2024年秋からダートトライアルの競技会が開催されることになった新たなコース。その意味では、中部勢の地の利は、まだ、ない。いずれにせよ、今後、いなべが全日本のシリーズでも重要なスタンスを持つコースになることは間違いない。どんな名勝負が今後、展開されていくのか、注目していきたい。











フォト&レポート/BライWeb