2024年の全日本ダートトライアル選手権中盤戦は東北での開催が2戦続いた。前戦青森のサーキットパーク切谷内から3週間のインターバルを経た8月3~4日には、福島県二本松市のエビスサーキット新南コースで第6戦が開催された。
エビスサーキット南コースは、長くD1グランプリが開催されてきたドリフトの聖地として知られるサーキットだったが、ダートトライアル等の競技を開催できるよう大幅な路面改修が行われ、新南コース(通称スライドパーク)として生まれ変わった。従来の舗装路面を引き剝がして砕いた材を敷き詰める等の方法で低ミュー化が図られ、またコース中央には広場が作られてコースアレンジの自由度が高まっている。
この新南コースでのダートトライアルの競技会は2022年から行われてきたが、全日本選手権は今回が初の開催となる。過去のデータのない、ぶっつけ本番の路面でトップドライバー達がどんな走りを披露するかに注目が集まった。
土曜の公開練習日は猛暑の下で行われたため、走行の合間には十分な休憩時間を取るなど、競技オフィシャルを始めとする関係者・参加者の熱中症対策にも万全が図られた。翌日曜の決勝は曇り空の下でスタート。太陽が顔を出す場面もあったが、途中、雨が降り出す一幕もあり、路面はドライが保たれたものの、さらに読みにくいものとなった。
この中、競技会全体の中では中盤のタイミングで出走となったNクラスでは、今季からランサーに乗り換えた細木智矢が開幕戦に続く2勝目を飾った。第1ヒートの5番手から逆転優勝の細木は、「1本目はちょっと滑らせてみた所もあってのタイムだったけど、目標とするタイムは見えていたので、逆転のチャンスはあると思っていた」と、まずは第1ヒートの走りを振り返った。

「2本目に履いた(超硬質路面用の)スーパードライタイヤは、事前のテストでこのコースの路面に会うことは分かっていたので、迷いなく選択した。ただ出走前に雨が降って路温が下がったのが不安要素だった。ランサーは重たいので、無理に滑らせずに、タイヤをひねり潰すようにして発熱を早くさせて、その後もあまり滑らせずに走った。ダートラらしくない我慢の走りだったけど、ジムカーナの経験もあるんで、それは活かせたと思う」と勝因を語った。
細木は全日本ジムカーナ選手権に参戦する二刀流ドライバーだ。こちらではZC33Sスイフトスポーツを駆る。2024年は、この一戦の時点で全日本ジムカーナでもすでに2勝をあげており、ふたつの選手権でチャンピオンを狙える位置につけていた。

2本目も半ばを過ぎて、多くのドライバーの走行によって路面上の砂や微粒の石粒などが掃けた後には、やはり元々がサーキットということもあって、一部では地の舗装に近い路面が顔を出した。そうした路面には、舗装もカバーするハイグリップのスーパードライタイヤが、やはりベストマッチのようだ。
細木が巻き起こした二刀流旋風は終わらなかった。続くSA1クラスでも、全日本ジムカーナでは細木と同じBC1クラスで戦う志村雅紀が優勝をさらったのだ。第1ヒートを2番手で終えた志村は、第2ヒートで、“奇襲”作戦に打って出た。
「自分の前までのクラスの走りを見たら、リアにスーパードライを履くのはちょっと冒険だと思った。でもフロントはどうしてもスーパードライを履きたかったので、リアを通常のドライタイヤにして、砂などが溜まってフカフカの路面に入ってしまってもリアが飛んでいかないようにした。滅多にやったことのない組み合わせだったけど、バッチリだったと思う」と志村。全日本ダートラでは初となる1勝に喜びを爆発させた。

実は志村は2023年秋にこのコースで開催されたJAFカップダートトライアルでも優勝を飾っている。JAFカップは全日本と地区戦のトップドライバーが一堂に会する年イチのビックイベントだ。本番の路面を一度経験しているアドバンテージはあったが、2番手に1.6秒という大差をつけての優勝は、それだけでは説明できないだろう。

連続して二刀流ドラバーが制した決勝は、再びハイパワー4WDが集うSA2クラスに移った。このクラスには、今回のような路面では無類の速さを発揮する2023年のチャンピオン、浜孝佳がラストゼッケンに控える。その断トツの優勝候補は、第1ヒートで早速、後続を2秒以上の大差でぶっちぎって暫定ベストを叩き出した。
注目の第2ヒート。各ドライバーともタイムアップするが、その差は1~2秒と上げ幅は縮まってくる。SA2クラスのような後半ゼッケンの車両は、第1ヒートから砂が掃かれ始めた路面を走ることも多い。2本目にスーパードライタイヤを履くような乾き切った路面になれば、さらにタイムは上がるが、前半のクラスの車両ほどには、1本目と2本目のタイム差は開かず、2本のタイムが接近する傾向になる。
そうした事実を裏付けるかのように、浜が第1ヒートで叩き出した1分28秒845のタイムは更新されることなくシードゼッケンの出走となった。第2ヒートのそれまでのベストタイムは、1分30秒890。浜のスーパーな暫定ベストタイムのハードルはかなり高いと思われた。
因みに浜もジムカーナの経験者で、全日本の舗装ラリーにも数戦、参戦した経験がある。もう、こうなるとマルチドライバーと呼ぶしかない。ただしこのクラスにはもう一人、両刀使いがいた。第1ヒートで2番手につけた岡本泰成だ。2023年から頭角を現したこの若手ドライバーは、地元九州のジムカーナ地区戦にFD3S型のRX-7で参戦中だ。
シードゼッケン2番目の出走となったその岡本が、一気に1分27秒台に叩き入れて、浜のタイムを1.8秒も削り取る。会場は大きくどよめいた。「走りは1本目の方がミスが少なかった。ただ一か所、ターンがうまくできなかったので、2秒近くはロスしたかもしれない。2本目はそこを修正することだけを考えて走った」と岡本。
優勝のターゲットタイムがさらに大きく吊り上がった状況でスタートしたラストゼッケンの浜も、自らのタイムを1秒近く更新、27秒台に入れてくるが、岡本のタイムには大きく離されて再逆転はならず。両者、中間ではほぼ同タイムとあって、後半区間で岡本が一気に引き離した形となった。

「昨日からここの路面に合わせ込む走りがなかなかできなくて難しかったけど、最後の最後で決められて良かった」と振り返った岡本は、「ちょっとでもジムカーナの経験が活かせたら嬉しいな、と思いながら走っていた」と細木同様、ジムカーナの走りがタイムに繋がる路面だったと振り返った。そして、「ジムカーナで乗ってるFRとは違い、4WDは4WDでまた難しいものがあるので、簡単ではなかった。前戦の切谷内の後で、練習会でスーパードライで走り込んだことが、今回は一番の勝因だと思います」と付け加えた。

真夏の炎天下でのバトルとなった今回の一戦、シーズン初優勝者は前戦の切谷内の3人から一挙に6人に増えた。その内、2名が全日本初優勝だ。そしてDクラスを制した田辺剛を含めた実に4名もの二刀流ドライバーが勝利を手にした。優勝したドライバー達には失礼な話かもしれないが、全日本初開催らしい、予測不能な意外性に富んだドラマが展開したと言えそうだ。その中で、二刀流ドライバーがバトルを掻き回したという事実は、単なるひとつのエピソードに過ぎなかったのか。答えは2025年、全日本2年目となる6月の戦いで明らかになるのかもしれない。















フォト&レポート/BライWeb