2024年の全日本ジムカーナ選手権は、全10戦中、3つの大会で週末に2戦が行われるという、これまでにないスタイルを採るシリーズとなった。このダブルヘッダー方式は、2023年に北海道のオートスポーツランドスナガワで採用され、話題を集めたが、2024年はモビリティリゾートもてぎ、スポーツランドSUGOも加わり、計6戦がダブルヘッダーとして行われた。
3月にもてぎで行われた開幕大会では全9クラス中6クラスで連勝を飾るドライバーが現れ、6月のスナガワ大会でも4人のドライバーが連勝した。予想されていたとは言え、シリーズの中で比重が増したダブルヘッダーの勝敗はタイトルレースに大きく影響し、今回のSUGO大会を前に、開幕大会を連勝したドライバーは全員、ポイントリーダーとしてSUGOに乗り込んできた。
ダブルヘッダーと言っても土曜と日曜では当然、コースレイアウトは異なる。ただそのコースが本来持っている基本的な特性というものはそれほど大きくは変わらないため、土曜にドライビングとセッティングがドンピシャでハマったドライバーは2日間、好調をキープできる可能性が高まるのもジムカーナという競技の特徴ではある。
ただこのダフルヘッダー方式は、選手の移動コストや参戦コストの低減を図るコンセプトも兼ね備えているため、制約もあり、例えば決勝の2日間を1セット(4本)のタイヤで走らなければならないというルールがある。タイヤの消耗の激しい真夏の炎天下で走る今回のSUGO大会には大きく影響するルールであり、多かれ少なかれグリップの変動幅がタイムに直結することから、過去2大会に比べれば連勝は困難ではないかと見られたが、それでも3名がこの離れ業をやってのけた。ただし今回は土曜の負けをしっかりと翌日の勝利に繋げたドライバー達の、日曜日の奮闘ぶりをリポートすることにしたい。

BC1クラスは、参加21台と今大会2番目のエントリーを数える激戦区となった。参加台数が多いだけに、車種もバラエティに富み、現行のZC33S型スイフトスポーツが6台と最多だが、1995年に販売が開始されたDC2型インテグラ・タイプRも同じく6台と健在だ。
DC2インテグラは全日本ジムカーナに一時代を築いたと言ってもいい名機だが、同じくホンダが開発したシビック(EG6・EK4・EK9)やEF8型CR-Xといった車両も全日本ジムカーナでは数々の栄冠をもたらしてきた。
現在では入手すらも困難なこれらのスポーツモデルも総勢6台が参加。さらにホンダ車ではEF8型CR-Xと並んで昭和の名マシンとして名高いGA2型シティも1台エントリーした。残る2台はアバルト595とミニという輸入車勢が占めた。
このクラスはもてぎ大会でDC2インテグラの西井将宏が、スナガワ大会ではEK9シビックに乗る橋本克紀が連勝を飾った。結果、このSUGO大会を前に西井は89ポイントを稼いでランキング首位。橋本も76ポイントで2位と、ライバルを引き離してトップグループを形成している。この二人に追いつくには、このSUGO2連戦で高得点を上げるしかない。
土曜に行われた注目の第8戦は、EF8型CR-Xを駆る沖縄の神里義嗣がZC33S型スイフトスポーツの2台を抑えて今季初優勝し、“新旧対決”を制したが、2位の牧田祐輔との差は僅か0.005秒と熾烈を極めた一戦でもあった。西井は4位に入って10ポイントを得たが、槁本は2度の脱輪が響いてポイント圏外に沈んだ。
今季の過去2度のダブルヘッダーの例に倣うならば、第9戦の最有力候補は神里。そんな期待に応えるかのように、神里は第1ヒートでトップタイムを奪う。だが2番手につけた小武拓矢との差は僅か0.007秒。そして牧田も前日に続いて神里に食らいつき、0.1秒差で追う。小武が駆るのはZC33S型スイフトスポーツ。この日もスイフトとコースの相性は悪くないようだ。
注目の第2ヒートに入ると、小武が0.3秒近くタイムを詰めて、この日最初に1分8秒台に入れてくる。神里もタイムアップするが、1分9秒の壁は破れず、2番手。ラス前の橋本が1分8秒台でゴールするも、パイロンペナルティと脱輪を取られて万事休す。ラストの西井も8番手にとどまって、“連勝組”は今回、優勝争いには絡めなかった。

小武はCR-Xで2020&2021年にこのクラスを連覇したが、スイフトに乗り換えてから初の1勝をマークした。「スイフトに乗り換えた人達が次々と優勝していく中で、自分だけ取り残された感じがあったので、ようやく肩を並べられた思いです」と小武。ゴール後は安堵の表情を見せた。
「正直、この暑さで特にフロントタイヤが2本目、厳しかったけど、タイヤに優しい丁寧な走りをしたのが逆に良かったんでしょう。外周の高速コーナーで脱輪しそうになった所もギリギリで何とかコントロールできた。ただスイフトはもともとタイヤの熱が入りづらいクルマなので、路温が高かった今日は他の車種よりは有利だったかもしれない。正直、昨日までは乗れてなくて、周りからも“色々タイミングが合ってない”とお叱りも受けたので、今日はダメ出しされた所をしっかり押さえて走った。昨日の教訓あっての勝利だと思う」
ダブルヘッダーについては、「過去2大会のこともあるので、ウチのクラスは土曜に勝てれば連勝できるというジンクスがあるんじゃないか、って仲間と話してたので、昨日終わった時点では、今回も望み薄かなと思っていたんですよ。実力が拮抗したクラスなので、乗れてるか、乗れてないかという所で差が出るんだよな、と。でも、あきらめずに走って良かった。もし昨日、中途半端な順位で入賞できていたら、それで満足したかもしれない。やっぱり昨日の悪い結果あっての返り咲きですね」と語った。

トップの2台がタイトルを巡るマッチレースを展開しているPN1クラスは土曜の第8戦で斉藤邦夫が第6戦からの3連勝を決め、ポイントリーダーの朝山崇に勝ち星で並んだが、第9戦では朝山が0.185秒競り勝って、斉藤の勢いを食い止めた。
この日、朝山は第1ヒートで脱輪のため下位に沈むという最悪のスタート。「でも斉藤さんとのタイム差は4/1000秒差だったので、“来たな”という感じがあった。ここは斉藤さんが得意とするコースなので、昨日までは追いつけてなかったけど、昨日の最後には0.2秒差まで詰められた。正直もっとボロ負けすると思っていたんで、タイムの上げ代はまだあるんだなと自信が持てた」
その言葉を裏付けるかのように、第2ヒートでさらなるタイムアップを遂げたことが逆転に繋がった形だ。「ここは走り込んでリズムを掴んだモン勝ちのコース。要はドライバーのコースへの習熟度が試される。最後に勝てるかどうかは分からなかったけど、やっぱり昨日から走る度にタイムを上げられたのが最後に実を結んだ」

全日本ジムカーナは、通例は土曜は公開練習日となり、2本走行を行う。土曜の好調を維持して日曜も好タイムを刻むドライバーもいるが、練習はあくまで練習。有力なドライバーが平凡なタイムで走ったりすれば、“三味線を弾いた”と揶揄される(!?)こともある世界だ。だがダブルヘッダーの土曜はまったく違う。
結果的には朝山は土日の4本を勝利に向けて完璧に組み立てた形だが、「ダブルヘッダーは本当にクタクタになるし、終わった後の1週間は体調も崩す感じになってしまう。今回も木曜から練習走行ができるスケジュールだったけど、それもあって敢えて木曜は走らなかった」と、その厳しさも明かしてくれた。試練の二日間を乗り越えた安堵感も垣間見せてくれた朝山だが、チャンピオンは最終戦決戦に持ち越された。

PN1クラス同様、この第9戦が天王山となったのがPN3クラスだった。このクラス、開幕のもてぎ大会は、大多和健人が連勝。大多和はその後も第4戦、スナガワ大会2戦目となる第6戦も制して、この時点で6戦4勝と俄然、優勢に立った。しかし第7戦そして今回の一戦目は、このクラス3連覇中のユウが連勝。
一方、前日の第8戦で大多和は3位に入るも、有効7戦分のポイントをすでに獲得しているため、2位以上でなければ有効ポイントは加算されない。第8戦で“足踏み”を強いられた大多和に、猛追するユウは5ポイント差まで迫っていた。
迎えた日曜の第1ヒート。先行したのは大多和だった。中間タイムでユウを0.076秒凌いだ大多和は後半区間でさらにリードを広げ、0.47秒差で振り切って暫定ベストをマークした。「昨日は外周が苦手な左回りだったので、今日は右回りになるんじゃないかと期待したんだけど、朝、コースを見たら右回りだったので、“今日は来たな”と思った(笑)」と大多和。

大多和はこの1本目に賭けていた。「夏場の連戦は厳しいので、連勝は無理だと思っていた。最初から日曜狙いだった。ユウ選手のタイヤ(のグリップ)は昨日、絶対に勝たなければいけなかった分、昨日がピークで今日は落ちてくる方向だと思ったので、自分の選んだタイヤのピークが、ユウ選手のタイヤに一番クロスするのが今日の1本目だと思っていた。自分は昨日はタイヤは温存して今日のためのセット出しに努めたので、減衰も含めて昨日からはかなり細かく変えて備えた。でもなぜか今日は朝から、行ける気満々でした(笑)」
しかし第2ヒート、ユウが意地を見せる。厳しくなったはずのタイヤでタイムアップを見せたのだ。だが大多和の1本目のタイムには届かなかった。「2本目はグリップがなくなってきたので、1本目に賭けたのがやっぱりベストだった。置きに行って勝てるほど甘い相手じゃないので、もう攻め切るしかなかった」と大多和。いつコースアウトしてもおかしくないほどの凄みを感じさせる限界の走りを見せた大多和は、この1勝で初の全日本チャンピオンを決めた。
ダブルヘッダーについてみれば、対戦成績でユウに4勝2敗と勝ち越した形だが、「やっぱりもてぎの連勝が大きかった」と大多和は振り返った。「あれで第3戦からの走行順が後ろになったので、他の選手の様子を見てからスタートできるようになった。もちろん、その分、追い込まれもするんだけど、それを引いても最後に走れたのは良かった」

連勝して勢いをつけてこのダブルヘッダーという新たな競技スタイルを味方につけた者もいれば、週末の二日間を乗り切れないままに走り、狙った結果を残せないまま会場を去った者も少なからずいたはずだ。悲喜こもごもの表情を添えたこのハードなバトルは、2024年を以て、とりあえず一旦、終了。ただ後で振り返ってみた時に、強烈なイメージを放ってくる一年として記憶されるシリーズになるかもしれない。












フォト&レポート/BライWeb