2024年の全日本ラリー選手権は、10月18~20日、岐阜県高山市を拠点として開催された第51回M.C.S.C.ラリーハイランドマスターズでシリーズ最終戦を迎えた。ハイランドマスターズはその名の通り、飛騨地方の高地に位置する林道ステージを駆け巡るラリーとして知られる伝統の一戦。ここ数年は10月の紅葉前後にシリーズを締め括る一戦として開催されるのが定着しており、2024年も最終戦の地に選ばれた。
全6クラス中4クラスですでにシリーズチャンピオンが確定。今大会にはJN2クラスとJN4クラスの王座決定戦が持ち込まれた。この内、JN2クラスは、GRヤリス、ランサーエボリューション、WRXといったハイパワー4WDが集うクラス。今シーズンより若手育成を目的としたGRヤリスのワンメイクとなるMORIZO Challenge Cup(以下MCC)が、このクラスに懸けられたことで、注目の若手ドライバーが集うクラスとしても話題を呼んだ。
最終戦にチャンピオン獲得の権利を有して乗り込んできたのはWRXを駆る三枝聖弥と、GRヤリスの石川昌平の二人。ただし圧倒的に優位に立つのは三枝で、今大会で8位以上に入れば自力でタイトルを獲得できる。一方の石川は優勝し、なおかつ土曜のLEG1、最終の日曜のLEG2ともに最速タイムで上がってDAYベストも獲得するという、いわゆるフルポイントでラリーを終えることがタイトルへの最低条件だ。
国内ラリー界の名門であるLUCKチームに所属する三枝はダートトライアル出身の27歳。同チームの中心的存在である勝田範彦がドライブして全日本ラリーのチャンピオンに輝いたWRX STiを引き継ぎ、参戦する。今季は第2戦から第4戦まで3連勝を飾ってタイトルレースの主導権を握り、得意のグラベルラリーが続く第7戦からの北海道ラウンドで早々にタイトル確定かと思われたが、まさかの2戦連続リタイヤを喫して、タイトルはこの最終戦までお預けとなった。
一方、石川は、2015年に26歳でBRZを駆り、全日本ラリーJN4クラスチャンピオンを獲得するなど、早くからその速さが注目を集めてきたドライバーの一人。北陸でオートバックスを展開するPumaグループが運営するチームのエースドライバーで、3年前からGRヤリスを駆る。今季は第7戦RALLY HOKKAIDOでGRヤリスでの初優勝を飾るなど、三枝とは対称的にグラベル2戦でポイントを荒稼ぎし、タイトルの可能性を最終戦に繋いだ。
3本のターマックSSを2回ずつ走るLEG1をトップで走り切ったのは石川/大倉瞳のGRヤリス。雨が断続的に降り、場所によっては道を横断する“川”も現れるほどの難コンディションの中、6SS中4SSでベストタイムを奪い、リードを広げる。2本のSSでは総合でも7番手タイムをマークするなど、手が付けられないスピードを見せた。

ラリー序盤は、MCCのチャンピオンを決めている山田啓介/藤井俊樹が石川に食らいついたが、パンクで後退。小泉敏志/村山朋香のGRヤリスがSS5で1.5秒差で石川を下す今大会初のベストを奪って一矢報いるが、この日終了時ですでに25.6秒の差をつけられ、厳しい展開となる。一方、キープペースに徹した三枝/木村裕介は4位でラリーを折り返した。

サービスに戻ってきた石川は、「極端に雨に振ったセッティングでもなかったし、ドライバーもそんなに無理はしていないのに、いいタイムを出せたので自分でも驚いている」と、戸惑いつつも、「今年はしっかりターマックで速さを見せることが、自分もチームにとっても課題だったので、その意味では良かった」と振り返った。一方、小泉は、「雨は苦手意識はあるけど、自分の中では一生懸命走ったつもりだったので、ちょっとこのタイム差はフラストレーションが溜まりそう」と苦心の表情を見せる。
明けたLEG2。雨は上がって、一部セミウェットな箇所は残ったものの、路面はドライ傾向が進む一日となる。ここで速さを見せたのは、「気持ちを切り替えた。ドライだったら行けるんじゃないかと思ってプッシュした」という小泉。この日、前半の3本のSSで、すべて石川に競り勝ち、その差を13.0秒まで詰める。残すSSは前半で走った3本のリピートステージ。同じペースで走り切れれば、逆転の芽は出てくる。

小泉は2ループ目最初のステージ、SS10でこの日3度目のベストをマーク。石川との差を11.3秒として臨んだSS11でも連続ベストをマークするが、ここは石川が0.7秒差で食らいついて、その差は10.6秒に。さらに小泉は最終のSS12でも石川を7.1秒突き離して、前日に石川が見せたと同じような快走で締め括ったが、結果は僅か3.5秒届かず。悲願の全日本初優勝は2025年に持ち越された。
「今日朝の最初のSSの大山線で、ベストは獲れたけれど、0.7秒しか石川選手に勝てなかった。グリップがあった最終SSでは7秒も巻き返せたことを思うと、やっぱり路面が冷えてグリップが薄い時にどうタイヤを暖めてタイムを出していくか、が課題ですね」と小泉。現在33歳の小泉はダートトライアルでモータースポーツのキャリアを始め、全日本で表彰台を獲得するほどの実績を残したが、3年前にラリーに転向した。
「今年は表彰台のトップに行けそうな雰囲気はずっとあったけど、最後まで行けなかったのは悔しい。ただ振り返れば、雨ではタイム落としたり、ドライでもたまにガクッとタイムを落としたりと自分でも、勿体ない、と感じたラリーもあった。3年ラリーをやってきて、その経験を生かすということはできるようになったと思うので、また優勝という目標に向かって頑張りたい」と来たるシーズンに闘志を燃やした。

シリーズ終盤を2連勝で締め括った石川は、フルポイントを取り逃したこともあって逆転タイトルはならず。「昨日よりは攻めたのにタイムが上がらなかった。ただ路面が乾いてからは苦しかったのも事実。自分でも原因を掴みかねているので、しっかりと持ち帰って調べたい」と、新たな課題を突き付けられた一日となった。
「ただ、シリーズ後半になってトップ争いに絡めるようになったことは良かった。やっぱりRALLY HOKKAIDOで勝ってチャンピオンの可能性が見えてきたことで、チームの士気もグッと上がった。チームの総合力が大きくレベルアップしたのは間違いない」と、2連勝がもたらしたものが決して小さなものではなかったことを喜んだ。

そして新チャンピオンの誕生だ。この日2本目のSS8ではベストを奪うなど王者の速さを垣間見せた三枝は、前日からひとつ順位を上げて3位でゴールした。「昨日はペースを落とし過ぎたので、今日はドライになったこともあり、攻める所はしっかり攻めるつもりで走った。ベストが獲れたSS8は、自分でも気張り過ぎたと思ったけど、コ・ドライバーの木村さんから、“やり過ぎだ”と言われたので、その後はキープペースに戻しました」とゴール後は苦笑した。
「いまは只々、ホッとしたという気分です」とまさに肩の荷を下ろしたとでも言いたげな表情で振り返った三枝は、「優勝もできたけど、グラベルでリタイヤして自分の未熟さも思い知って、最後は“大人の走り”をしてチャンピオンが獲れた。ホントに濃い一年でした」と語った。

そして三枝はMCCの若手達の走りも大いに刺激になったと振り返った。今季の開幕戦、今回、表彰台に並んだ三人はいずれも、タイヤ性能等で戦闘力では劣るはずの山田のGRヤリスに敗れた。それはちょっとした“事件”として話題を呼んだ。
「開幕戦のゴールで、小泉選手と、“俺達、やっちまったなぁ”と頭を抱えた(笑)。あれで、何かしないと絶対にこのクラスでは勝てないと思い知った。それまでは範さん(勝田範彦選手)のセッティングのままで走っていたのを、自分の走りに合わすように変えて行ったことがチャンピオンに繋がったと思う」と三枝。小泉も、「開幕戦の負けで、自分のクルマ造りを根本的に考え直した」と振り返った。

終わってみれば、このJN2クラスは、今回、表彰台を固めた3人が、シリーズもMCCのドライバー達を抑えて上位3位までを独占して終えることになった。ただ、“先輩”の意地を見せた、という言い方では、ちょっと物足りないし、本人達にも少々失礼かもしれない。近い将来、全日本ラリーを背負って立つであろうこの3人には、来たるシーズンではさらなるスピードを期待したい。激烈なる三つ巴を最後まで展開してもらって、それを見届けたいというファンは、決して少なくないはずだ。









フォト&レポート/BライWeb