2025年の全日本ラリー選手権が、2月28日から3月2日に愛知県で開催されたRALLY三河湾で開幕した。
2年目を迎えたRALLY三河湾は、約245kmのルートの中に、計14本、トータル76.32kmのSSを配する設定で行われた。3月1日のLEG1は、三河湾スカイライン、スパ西浦モーターパークといった中高速主体のSSが中心となったが、翌2日のLEG2は一転してタイト&ナローな林道が待ち受ける低中速のSSが続くという形だ。
そのバラエティに富んだステージ構成は、今年もエントラントから好評を博したが、シーサイドのロケーションに恵まれたギャラリーステージも、昨年同様、複数設定されて、今年も多くの観客で賑わった。
開幕戦の楽しみのひとつは、これまで見たことのない新しいラリーカーに出会えるチャンスがあること。今年は、全日本ラリー初登場となる一台が大きな注目を集めた。
「ずっと小さいクルマの専門家だったけど、いつのまにやら最大のクルマのドライバーになっちゃいました(笑)」。そう言って、お道化て見せてくれたのは天野智之。ヴィッツ、ヤリス、アクアと乗り続けて通算16回の全日本チャンピオンを獲得してきたコンパクカーの絶対王者だ。その天野が今年、チョイスしたのがトヨタRAV4 PHEV。全日本ラリーの選手権がかかるクラスにSUVが参戦するのは初となる。
きっかけは、天野が昨年まで参加していたHV、EV車両等を対象としていたJN6クラスが、今年からJNXクラスと名称変更するとともに、排気量が2,500ccまで拡大されたこと。2,487ccのRAV4にも門戸が開かれたのだ。
「実は、JNXのレギュレーションが発表されるまでは、TOYOTA GAZOO Racingラリーチャレンジで走れないかと考えていたんだけど、規定を見て、“これなら全日本でもイケル!”となったんです。十分な勝算があっての選択かと言われると微妙なんだけど(笑)、300psを超える尋常じゃないパワーがあるし、バッテリーが下にあるので低重心でもある。1.9トンの車重は他のラリーカーに比べたらもちろん重いけど、SUVとしては、ちょっとだけど軽い。ターマックラリーなら、可能性があるんじゃないかと思った」と天野は話す。

ほぼぶっつけ本番で挑んだというLEG1。SS1は0.87kmのギャラリーステージ。スタート後はターンが続くジムカーナセクションとなるが、その後は速度の乗るコーナーを経て、最後は左直角のコーナーをクリアしてゴールとなる。
ここでのトップタイムは、昨年、天野のアクアが唯一、黒星を喫した清水和夫のヤリス・ハイブリッド。天野RAV4は1.4秒届かず、2番手。続くスパ西浦でのSS2でも清水が天野に3.3秒の差をつけて連続ベストを奪う。
しかし10.08kmのSS3三河湾スカイラインでは天野が11.9秒差で清水を下して、RAV4初のSSベストをマークする。普段は片側1車線となる三河湾スカイラインだが、ラリーは占有して行われるため、2車線分を使ってのコーナリングが可能。場所によってはかなりの高速セクションとなる。RAV4のハイパワーが炸裂したのか。
SS1~SS3を再走する午後のセクションに入ると、2度目のギャラリーステージとなったSS4で天野は清水と同秒のベストをマーク。西浦の2本目となるSS5では1.3秒競り勝つと、三河湾スカイラインのSS6では再び、清水を9.6秒差で下す。
そしてこの日、最後の0.7kmのグラベルのショートステージ、SS7 KIZUNAでは天野のRAV4は、GR86やスイフトスポーツがひしめく2WD車勢の中に入っても3番手に匹敵するスーパータイムを叩き出してゴールしてみせた。そう天野のRAV4 PHEVは4WD車なのだ。
SS7を走り終えてサービスに戻ってきた天野は、「思った以上に速かった。特にスタート加速が凄く良かった。重たいので運転は気を遣ったけど、ハンドリングは想定内だった」とRAV4の第一印象を語った。
コ・ドライバーの井上裕紀子も、「アクアでパワーがなくて、もどかしかった所はなくなって、めちゃくちゃ速い(笑)。ただタイヤのキャパシティがないので、コーナリングスピードが遅いのが今度は、もどかしい。アクアのいい所はスポイルされたけど、悪かった所は直ってる、そんな印象のクルマ」とRAV4を評した。
「車体が大きくなった分、路面からの入力がドライバーに来るまでに和やかになる。ラリーは長い距離を走るので疲れないための工夫も必要なんだけど、そこも改善できそう。今まで乗ってきた小さいクルマは、やっぱり大変だったなと改めて実感した」と井上は付け加えた。
タイヤに関しては、規定により一番小さい外径のものしか履けないため、天野も、「そこが一番きついかも。スピードが上がってくるとタイヤのキャパの小ささを実感してしまう」と、井上のコメントに同意した。

「今日のタイムはストレートで勝っただけ。コーナーでは勝ててないと思う。だから明日のようなコーナーがクネクネ続くような道は厳しい」と翌日を見通した天野。その言葉を裏付けるかのように、LEG2最初のステージ、10.70kmのSS8では清水が15.2秒も天野を引き離すベストタイムをマークして、8.4秒後方に迫った。
しかし清水の追撃もここまで。続くSS9から天野は連続してベストをマークしてリードを再び広げて独走態勢を築くことに成功。そのまま逃げ切ってRAV4のデビューウィンを見事に達成した。
「まさかこんなクルマが勝つなんて、と思ってる人もいるかもしれないけど、何もRAV4で皆でラリーやろうよ、と言いたいわけじゃない(笑)」とは天野。「ただ、RAV4でも、こういうクルマ遊びもできるんだよ、ということを知ってもらえたら嬉しい。例えばミニサーキットを走ってみるとかね、チューニングしてみるとかでもいいと思う。このクルマは、こうだよね、って決め付けるのはつまらないでしょ。そこは僕自身、コンパクトカーに乗ってた時、苦労したので(笑)」。
ダートを走るRAV4の雄姿も見てみたいところだが、バッテリーの位置の関係などもあるため、北海道のグラベル2戦は、昨年まで乗っていたアクアで出る予定とのことだ。いずれにせよ、RAV4旋風は、ここしばらくの間は続きそうだ。
開幕戦で天野同様にNEWマシンを投入して話題を集めたのが、JN1クラスに参戦する鎌田卓麻だ。昨年までは新井敏弘とともにスバル勢の一角を担ってきた鎌田が選択したのは、シュコダ・ファビアR5。全日本ラリーでは久々となるカストロールカラーを纏っての登場という面でも、大会に華を添えた。

その鎌田は、期待に違わぬ速さを初日から見せつける。SS3三河湾スカイラインで2番手、ヘイキ・コバライネンのGRヤリスRally2を4.2秒差で下すベストタイムをマーク。またこの後も、セカンドベストを連発するなど、デビュー戦とは思えぬ速さを見せつける。
LEG2ではテクニカルなステージに苦戦し、奴田原文雄のGRヤリスRally2に逆転を許し、4位でフィニッシュするも、垣間見せたそのスピードはライバルにとっては脅威となるだろう。
「Rally2やR5は、パッと乗ってすぐにタイム出せるクルマじゃないって聞いていたので、SS3のベストは自分でも、驚いた(笑)。ほとんどテストはできなかったので、LEG2の細い道は乗り慣れていないこともあってアジャストできなかったけど、感触はいい。何よりR5は無理しなくてもタイムが出せるクルマ」と鎌田。

「今年は勉強の年にするつもり。セッティングも含め、まだまだこれからだけど、データはシュコダが沢山持っているから大丈夫だと思う。夏からの北海道のグラベル2連戦が始まるまでには、そこそこの位置につけておきたいね」と、得意のグラベルでは優勝争いに絡みたいところだ。そのスピードに注目していきたい。







フォト&レポート/BライWeb