全日本ラリー第3戦Rally飛鳥/若きジムカーナ王者が前戦の教訓を生かして、全日本ラリー初完走!

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 5月に奈良で開催された全日本ラリー選手権第3戦Rally飛鳥。この一戦で、人生2度目のラリーに挑む若者がいた。奥井優介、25歳。1か月前に九州で行われた全日本ラリー第2戦ツール・ド九州in唐津が、彼のラリーデビュー戦。それまでラリーに出たことは、一度もない。

 そんな、ズブのラリー素人の若者が、なぜ全日本という国内最高峰の競技でいきなりラリーデビューを果たせたのか? もちろん、それには理由がある。彼は全日本ジムカーナの世界では、知らぬ者のいない、現役のチャンピオンなのだ。

 昨年、GRヤリスを駆ってPN4クラスに参戦した奥井は、名だたる強豪達を相手に、何と第3戦から最終戦まで8連勝を達成。初のシリーズチャンピオンに輝いた。そして今年はオーバーオールウィン(総合)を狙う猛者がひしめく、最高峰クラスのBC3クラスに挑戦を始めた。

全日本ジムカーナでGRヤリス、GR86と乗り継いできた奥井は、GRヤリスを再びドライブした昨年、圧倒的な成績で初のチャンピオンを獲得した。©BライWeb

 マシンは同じGRヤリス。ただしBC3クラスは大幅な改造が認められたハイパワーのマシンが集うクラス。エンジンはもちろん、駆動系から足回りまで、すべてにおいてハイパフォーマンスなマシン造りが要求されるクラスだ。

 だが奥井は、まだ不慣れなはずのこのクラスの開幕戦で、いきなり、ぶっちぎりのタイムで優勝を飾った。全日本ジムカーナの世界では、もう手が付けられないモンスターになりつつある男なのだ。

 しかしながら、奥井の全日本ラリーのデビュー戦は、ほろ苦いものとなった。最終日となる2日目朝イチのSSでコースオフし、リタイヤとなったのだ。
 
 初めて実戦のラリーを経験して、一番想定外だったことは何かと聞くと、「自分がリタイヤしたこと」という答えが返ってきた。「自分はリタイヤしないと思ってたんですよ。気をつけなければいけない所は、ちゃんと気をつけて走ったつもりだった。それでも“行っちゃう”のがラリーなんだな、と。ジムカーナとは、気をつけなければいけないレベルが違う」

 ジムカーナは勢いで行っても何とかなる世界だ、と奥井は言う。「ラリーは勢いで行ける世界では全然ない。勢いで行った結果が、唐津だった」

 奥井が走るのは、全日本ラリー最高峰となるJN1クラスのすぐ下に位置するJN2クラス。このクラスの中には、MORIZO Challenge Cup(通称MCC)という、若手を対象としたGRヤリスのワンメイククラスが全日本とは別に設定されており、奥井もエントリーしている。まずはMCCでトップを獲ることが、奥井の直近の目標だ。

 迎えたラリー2戦目となるRally飛鳥。ラリー初日のLEG1は3本のSSを2回ずつ走る設定だ。最初の3本をMCC11位で走り終えた奥井は、2ループ目に入るとペースアップ、SS5では4番手、SS6では5番手となるタイムをマークして、9位まで順位を上げて初日を終えた。

狭く、濡れた、そして木々に遮られて暗い道を、昼間からライトを灯して走る。経験値が一気に上がったラリーとなった。©BライWeb

「上とも下ともタイム差が開いていたので、無理はしない」と臨んだ翌日のLEG2ではキープペースに徹したが、最終的にはひとつ順位を上げてMCC8位でゴール。ラリー初完走を果たした。

「特に昨日が唐津よりも道が狭いし、ギャップもあったので難しい道だった。走り終えた時点で、もうお腹いっぱいという感じ(笑)。今日も滅茶苦茶、完走を意識して走ったけど、無事に帰ってこれて良かった。最後まで丁寧に丁寧に走ったのが、良かったと思う」とゴール後は安堵の表情を見せた。

 ただひとつだけ、心残りなことがあった。LEG2、ジムカーナで走り慣れているはずの名阪スポーツランドのSSで、1本目は同秒ベストが獲れたものの、2本目は2番手に甘んじてしまったのだ。ジムカーナチャンプのプライドをへし折るには十分すぎる出来事だった。

 前日、周囲は名阪でのトップタイムを期待しているのでは、とのこちらの意地悪な質問に対して、奥井は、「プレッシャーはない。気負わずに走りますよ」と言い切った。だが、「こういう時に限って負けたりするんですよね」とも付け加えた。ジムカーナで培われた勝負師としての勘が、結果的にはマイナスに働いてしまった形だが、プラスに変えていく機会は、これからラリーではいくらでもある。

「狭い林道で、とっ散らかって修正できなかったら即リタイヤとなるのがラリー。ジムカーナで培ったマシンコントロールの技術が、そういう所ではカバーしてくれていると思っている」。©BライWeb

「ラリーって面白いですよ。普通に走ると箸にも棒にもかからない。でもだからこそ、“次こそは”と、燃えられる。ちゃんと踏めると順位は上がるけど、ちょっと抑えただけでドンと下の順位に沈む。そのペース配分が本当に難しい。ともかく、今の自分に必要なのは、精度を上げたペースノートと、丁寧に走り続ける集中力。まずはこの一年をしっかり走り切りたい」

 7月に開催される第5戦では人生初のグラベルラリーを走る。初もの尽くしの挑戦は、まだまだ終わらない。

新井大輝シュコダR5が待望の今季初勝利。JN4クラスは全日本2戦目の藤原友貴スイフトが初優勝を飾る

 奈良県では実に32年ぶりの全日本ラリー開催となった、「YUHO Rally 飛鳥 supported by トヨタユナイテッド奈良」は、5月16~18日に奈良県天理市をホストタウンとして開催された。SSはすべてターマックで、2日間で計10本、62.88kmを走る設定だ。土曜のLEG1は雨に祟られる一日となったが、日曜のLEG2は降雨もなく、午後には、ほぼドライのコンディションとなった。

 JN1クラスは、マシントラブルが続いて今季まだ勝ち星のない新井大輝/立久井大輝がLEG1からベストタイムを連発してライバルを引き離すとLEG2でもトップの座をキープ。2位のヘイキ・コバライネン/北川紗衣に34.5秒の差をつけて今季初優勝を果たした。開幕2連勝の勝田範彦/保井隆宏は3位に入り、3戦連続で表彰台をキープしている。またJN2クラスでは、LEG1でパンクで出遅れた山田啓介/藤井俊樹が猛追を見せて逆転を果たし、今季2勝目をマーク。MCCでは、大竹直生/橋本美咲が1位を得た。JN3クラスでは、山本悠太/立久井和子が開幕3連勝を飾った。

開幕から2戦は満足な結果が残せず、タイトルレースでは完全に出遅れた感のあった新井大輝/立久井大輝のシュコダR5だったが、今回は快勝。反撃の狼煙を上げた。©BライWeb
天理市役所で行われたセレモニアルフィニッシュでは、2台のGRヤリスRally2を従えた新井と立久井がトップで祝福を受けた。©BライWeb
JN2クラスでは昨年のMCC王者である山田啓介/藤井俊樹が、大逆転で2勝目をマークした。©BライWeb
MCC王者を狙う大竹は今回も速さを見せて、開幕から3戦連続でトップをキープした。©BライWeb
ディフェンディングチャンピオンの山本悠太/立久井和子も開幕3連勝を飾った。©BライWeb

 JN4クラスは前戦ツール・ド・九州で全日本デビューを果たした藤原友貴/宮本大輝が、10本中9本のSSを制する圧倒的な速さを見せて、僅か参戦2戦目にして全日本ラリーを制する快挙を達成した。JN5クラスは昨年のチャンピオン、松倉拓郎/山田真記子がLEG1をトップで折り返したが、名阪でまさかの転倒を喫してリタイヤ。首位に繰り上がった河本拓哉/有川大輔がそのまま逃げ切り、前戦から2連勝を飾った。JNXクラスは今季からRAV4 PHEVを投入した天野智之/井上裕紀子が、安定した速さを見せてライバルを寄せ付けず、開幕3連勝を果たしている。

開幕前はノーマークだった藤原友貴/宮本大輝だが、唐津で速さを見せて注目の存在に。僅か参戦2戦目で全日本初勝利を飾った。©BライWeb
地元開催の前戦を制して勢いに乗る河本拓哉/有川大輔。ラッキーな一面もあったが、2連勝でシリーズランキングもトップに浮上した。©BライWeb
今季、話題を集める一台、RAV4 PHEVを駆る天野智之/井上裕紀子は、4WDの強みを生かして雨のLEG1を快走。そのまま逃げ切った。©BライWeb

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